2018 Fiscal Year Research-status Report
三世代のサマ・バジャウ移民家族を生活史の語り合いでつなぐー記憶の分有と想像力
Project/Area Number |
18KT0077
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
青山 和佳 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (90334218)
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Project Period (FY) |
2018-07-18 – 2021-03-31
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Keywords | オーラルヒストリー / サマ(バジャウ) / フィリピン / 記憶の分有 / 想像力 |
Outline of Annual Research Achievements |
1年目(2018年度)は、1)バックグラウンドとしてのダバオ市の歴史調査、2)オーラルヒストリーをかつて提供してくれた5つの家族に研究代表者(青山)が語る段取りをつける予定であった。 まず、1)については、交付申請書に明らかにしたように、本科研費の結果を待つ時間的余裕がなかったため、所属機関の個人研究費より2018年7月初旬より2ヶ月間、フィリピン、ミンダナオ、ダバオ市にあるAteneo de Davao UniversityのJoint-Ateneo Institute of Midanao Economics(JAIME)に滞在し、ダバオ市の歴史にかんする二次資料(文献、統計等)を収集するとともに、現地の研究者と意見交換を行った。 2)については、大幅に方針を変更し、想定していた5つの家族から1つの家族にしぼることとなった。この理由は、オーラルヒストリー調査を開始した2019年3月末の直前に、メインの調査地(ダバオ市イスラベルデ)が(2014年の火災に続き)全焼したためである。そこで、2014年の火災時点で別地区に転居していた2家族のうち、1家族を選び、そこでオーラルヒストリー調査を開始した。この家族は、調査対象としていた5家族のなかでも「ペンテコステ派キリスト教を最初期に受容し、かつ教会を建てて、コミュニティの指導的立場となった」という特徴がある。そこで、調査デザインも若干変更し、「第二世代ペンテコステ派キリスト教徒(牧師の子どもたち)」のライフヒストリーの収集と映像を撮影することから始めた。実施にさきだち、倫理的な観点から、データの使用にかんする覚書をとりかわした。 このように本研究はまだ始まって半年ほどにすぎず、現時点での学術発表はまだない。2019年度より徐々に学会で報告をし、予備的結果と分析を開示していく予定であり、実際に2つの国際学会にエントリー中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績」で述べたように、メインの調査地が火災で焼失するという悲劇はあったものの、そのような現場の状況(とくに人びとの状況)にさからわないように調査設計を調整したことにより、本研究プロジェクトはおおむね順調に進展していると考えている。 世代を超えてライフヒストリーを語り合うという当初の予定からずれているように見えるが、実際には第二世代が自らのライフヒストリーを語りはじめると、第一世代がそれに刺激されて語りを重ねるというリアクションが見られる。また、このようなことは調査者のリードではなく、コミュニティ生活の住居構造が親密性を保持しやすい形であることから生じているのではないか、という新たな仮説も生まれており、フィールドワーク型の調査としては自然な流れであると思う。
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Strategy for Future Research Activity |
実際に調査を始めてみると、当初の調査設計は野心的すぎたと思う。というのは、実際にオーラルヒストリーを収集しはじめてみてつぎのことが判明したためである。すなわち、1)調査対象者はわたしが想定していたよりも協力的=語ってくれる意思もあるし、撮影にも応じてくれる。が、しかし、2)調査対象者は「貧困」であり、貧困者に特徴的なタイムアロケーション、一言でいえば「貧乏ひまなし」でさまざまな日常的活動におわれているため、調査対象者1名につきインタビューは1日20分程度に限られてしまう。3)だからといって、たとえば金銭的交渉によりインタビュー時間を確保することは倫理的に問題であろうから、いまやっている方法を「最適」と考えることが現実的である。 このような反省にたち、2年目もインタビューと映像撮影については、現在と同じペースで進める。また、バックグラウンド調査としてのダバオ市歴史調査についてはいったんまとめた論考をワーキングペーパーや学会口頭報告で発表し、そのリアクションをみながら継続していくつもりである。具体的には、2019年夏頃まで1ヶ月程度、2020年春までに1ヶ月程度の現地調査を検討中である。
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Causes of Carryover |
本プロジェクトは海外調査を含むためその費用は為替レートに影響を受ける。次年度使用額776円はその誤差範囲で生じたものである。次年度の助成金と合わせて、すでに申請済みの計画通りに使用する予定である。
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