2019 Fiscal Year Research-status Report
三世代のサマ・バジャウ移民家族を生活史の語り合いでつなぐー記憶の分有と想像力
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18KT0077
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
青山 和佳 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (90334218)
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Project Period (FY) |
2018-07-18 – 2021-03-31
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Keywords | フィリピン / ダバオ / 生活史 / サマ・バジャウ / 民族誌 |
Outline of Annual Research Achievements |
予定通り、フィリピン、ダバオ市のサマ・バジャウ集落および周辺地域において現地調査を3回実行した。1回目は2019年4月29日から5月20日、2回目は同年7月13日から8月11日、3回目は同年10月30日から11月6日である。いずれも、過去の調査から蓄積してきたオーラル・ライフ・ヒストリーの語り直し作業である。 すでに報告したとおり、当初の予定であった5家族3世代をすべてカバーすることは、実際には所与の資源(時間を含む)にたいしてややスケールオアーバーであった。そのため、本年度は、調査対象の人びと、および現地の研究者(Ateneo de Davao UniversityのSocial Science ClusterおよびJoint Ateneo Institute for Mindanao Economics)に相談の上、以下のように調査の設計を調整し、実際に実行した。1)5家族については研究代表者(青山)が作成中であった生活史(1998-2000)について写真想起法を用いて内容の語り直しを行う、2)追加1家族(キリスト教受容の中心となった牧師一家)については、3世代目の子どもたち5名の生活史の語りを収集、3)研究代表者が若い世代にたいして「語り」による民族誌的プレゼンテーションを実施し、そのフィードバックを得る。 これらの過程およびそれらの取りまとめにより、現地における英語による口頭報告2回、日本語による論文(書評含む)3本、英語による単著1冊の執筆、公刊を行うことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前述したように調査設計時のオーバースケールを現地調査におけるフィードバックをもとに調査設計をデザインしなおすことである程度解決し、調査期間合計3年間に一定の成果をあげられるように軌道修正したことである。嬉しい誤算は、所属機関より出版グラントを得ることができたこと、調査地の住民および現地研究者から多大なる支援を得たことから、予定よりも1年早く英語単著という作品に至ったことである。しかしながら、この単著ではカバーしきれなかったこと、また単著を書くこと(=今回の調査研究プロセス)において新たな発見があったこともあり、のこりの1年間を慎重かつ丁寧に使い、「オラリティと社会」という特設分野ならではのユニークな研究プロセス、そして成果につなげていいきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の要は現地調査によるオーラル・ライフ・ヒストリーの語り合いである。コロナ禍の現在、1年間の研究期間の延長をお願いしたいと考えている。というのは、ダバオ市のサマ・バジャウの人びとの場合、いわゆる都市貧困層であり、WIFI等のネット接続環境がない上に、そもそもそれを使いこなすスキルもない。現地の大学関係者等も外出禁止や自粛のもとにあるため、ZOOMなどを使っての調査協力を依頼することは極めて困難である。 また、あえて前向きにいえば、来年度に調査期間を延長することは、この未曾有の危機を調査地の人びとがリスクを負いながらどのように知恵をはたらかせて生き延びたのかという語りをその生活史に含めることも可能であるし、ぜひやるべきであろうと考える。
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