2018 Fiscal Year Research-status Report
宗教言語の共在性と創造性:古代メソポタミアの祈祷と中世日本の祭文の比較研究
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18KT0078
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
細田 あや子 新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (00323949)
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Project Period (FY) |
2018-07-18 – 2022-03-31
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Keywords | 祈り / 唱えごと / 言霊 / 儀礼 / 聖なるものの顕現 |
Outline of Annual Research Achievements |
古代メソポタミアの宗教儀礼のなかで、アーシプという職能者が行う儀礼について考察を進めた。そのなかでもキシュプーに対抗する儀礼文書の解読を中心に行った。キシュプーとは呪い、呪詛、祟り、怨念、怨霊、怨念をもつ生霊といった現象に近いものと考えられる。キシュプーにとりつかれると病気となり、不浄となり、呪縛の状態に陥ってしまう。そのため、病気の原因がキシュプーであると診断された場合、アーシプがキシュプーに対抗する儀礼を行う。 このキシュプーに対する対抗措置、病気治療のなかで最もおおがかりなのが「マクルー」儀礼である。マクルーとは「燃やすこと」という意味で、この名が示すように、キシュプーを行った者、仕掛けた者、敵対者といわれる人物をあらわした小像を火で燃やすことが、儀礼の主眼である。 マクルー儀礼の、IからVIIIまである唱えごと文書(儀礼的発話指示書)と儀礼全体の式次第の指示文書(儀礼的動作指示書)を解読した。その結果、二日間にわたって行われる儀礼において、はじめにキシュプーを行った者は、自分がかけたキシュプーを上回るより大きな――アーシプの――知恵と技により、壊滅的な死に至ることとなる。他方、死の状態にあった病人は再生し復活する。アイデンティティを確認した病人は、通過儀礼を経たといえる。アーシプがキシュプーを封じ込めることで力の転換が起こっており、マクルー儀礼の力学が読み取れることが明らかとなった。 宗教言語の共在性と創造性という視点からみると、マクルー儀礼で唱えられる唱えごとは、儀礼の所作や動作とあわせて、アーシプの行為遂行性に不可欠な力を与えていると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
メソポタミアの儀礼のなかで唱えられる唱えごとについて、マクルー儀礼文書の解読をとおしてその特徴を明確にすることができた。もともとは別の儀礼で用いられていた唱えごとが、マクルー儀礼のなかに取り込まれてゆく過程を明らかにした。火と水を用いる儀礼の特徴をアーシプの唱えごとに注目して考察した。
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Strategy for Future Research Activity |
メソポタミアのアーシプが行う儀礼について、キシュプーに対抗する儀礼のほか、神像の口洗い儀礼などについても考察をひろげ、そこで唱えられる唱えごとを分類し、特徴を明らかにしてゆく。唱えごとが悪を排除し、聖なる空間を作り上げることを、具体的な儀礼の事例研究をとおして解明してゆく。
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Causes of Carryover |
国内の出張を都合により取りやめたため。この分は次年度の国内旅費にあてる予定である。
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[Book] 『中世美術の諸相』2018
Author(s)
越宏一・細田あや子・辻成史・小池寿子ほか
Total Pages
414
Publisher
竹林舎
ISBN
978-4-902084-45-0
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