2020 Fiscal Year Research-status Report
宗教言語の共在性と創造性:古代メソポタミアの祈祷と中世日本の祭文の比較研究
Project/Area Number |
18KT0078
|
Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
細田 あや子 新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (00323949)
|
Project Period (FY) |
2018-07-18 – 2022-03-31
|
Keywords | 古代メソポタミア / 儀礼 / 唱えごと / アーシプの要覧 / 知恵の神エンキ/エア |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に続き、古代メソポタミアの宗教的職能者アーシプに注目しながら、彼らが書き記し伝承させた文書の解読を行った。「アーシプの要覧」には、儀礼で唱えられる唱えごとが数多く記されている。これは、唱えごとの言葉によってアーシプは災禍や不幸を除去していたことを意味する。アーシプたちにとり、唱えごとはきわめて重要であったが、ここからメソポタミアの宗教言語の創造性が考察される。 着目すべきは、唱えごとは知恵の神エンキ/エアによるもの、エンキ/エアから発せられたものとみなされていたことである。アーシプ自身が、「その唱えごとは私のものではない。/エアとアサルヒの唱えごとであり、神々のマシュマシュであるマルドゥクの唱えごとである。/彼らが(それを)唱え、(そして)私が繰り返した。〈唱えごとの言葉〉」と述べる文言がある(BAM 4, 398 rev. 20’-22’)。このようにアッカド語では「この唱えごとは私のものではない」「(それは)○○神の唱えごとである」「○○神の命令に従って」「○○神が唱えごとを唱えた/言った」といった語句がよく用いられ、唱えごとは人間によるものではなく神によるものとみなされている。 以上のことから、唱えごとを唱える主体はエアとアサルヒであるという理解があったことが認められる。アーシプの守護神であるエアと息子アサルヒ(マルドゥク)が唱えごとを唱え、それをアーシプは真似て繰り返していたことが強調される。唱えごとは、エア、さらにその息子アサルヒ・マルドゥクに由来し、それを受け取ったアーシプが儀礼においてその文言を朗唱していたのである。唱えごとは、アーシプたちが守護神として信仰していたエアから与えられたものと理解されていた。唱えごとの言葉の力は、限られた者しか到達することのできないアーシプの秘義の一つであるが、伝承による共在性についても検討した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アーシプの儀礼文書のなかの唱えごとや「アーシプの要覧」という文書の解読をとおして、メソポタミアの宗教言語の創造性や共在性について考察することができた。とくに知恵の神エアからもたらされる唱えごとという特徴をとおし、エアとアーシプの密接な関連性について明らかにすることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
メソポタミアのアーシプの儀礼文書のなかの、とくに唱えごとのタイプに着目しながら分析する。エアからもたらされたアーシプの知恵に関する文書についても、宗教言語の共在性という観点から考察する。日本をはじめとするアジアの儀礼との関連についても比較考察を行う。
|
Causes of Carryover |
2020年度はコロナウイルス感染拡大防止のための外出制限により、国内、国外の出張がすべてキャンセルされたため。2021年度においても感染状況が今後どうなるか不明であるが、旅費や物品費、また謝金などの支出を計画している。
|