2020 Fiscal Year Research-status Report
Caregiver-infant joint action in the emergence of daily skills
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18KT0079
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
野中 哲士 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 教授 (20520133)
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Project Period (FY) |
2018-07-18 – 2022-03-31
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Keywords | アフォーダンス / 共同注意 / 促進行為場 / 注意の教育 / 環境 / 習慣 / 身体技法 / 発達 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在までに、日本国内のある保育園の0歳児クラスの昼食場面の長期にわたる縦断的な観察を行ってきた。縦断的な12名の乳児のビデオデータをもとに、スプーンを乳児が使い始めた直後の食事場面を抜き出し、(A)養育者による介助、(B)乳児のスプーン使用、(C)乳児が養育者に向ける視線、という3者の時間的関係をこれまで重点的に検討してきた。現在までの検討の結果、次の知見を得ている。 1. 養育者は皿の位置や皿の上の食物の配置を調整し、乳児が自分で食べることを可能にする卓上の機会を絶え間なく調整しており、こうした調整の直後に乳児がスプーンを食物に向ける行為が偶然より多く生起していた。 2. 乳児は食事場面では養育者の「顔」よりも「手」を見ている時間がはるかに長く、さらに養育者が卓上の調整を行っているときは他の状況よりも8倍も多く養育者の「手」を見ていることが明らかになった。 3. 食事場面で乳児が養育者の「顔」を見る状況は、「手」を見る状況とははっきりと異なっており、乳児が自分で食物をスプーンで口に運んだ直後か、食事と無関係な遊びにスプーンを用いた直後に、自分のしたことを養育者が見ていたかをチェックするかのように養育者の「顔」を見ることが偶然より多いことが示された。 本研究のこれらの結果は、食事場面で養育者の「手」に向ける視線と「顔」に向ける視線が異なる役割を担うことを示すとともに、乳児がひとりでスプーンを食事にふさわしいかたちで使うようになる過程において、(1)養育者による周囲の機会の調整と、養育者の手に乳児が向ける注意の結びつき、(2)乳児の行為に反応を示す養育者と、養育者の顔に乳児が向ける注意の結びつきという、養育者の行為と乳児の注意の間の二種類の双方向の結びつきが存在することを示すものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,まだ言葉を使う前の乳児が日常生活技能を獲得する周囲で生起する乳児の行為と,行為の周囲の環境における他者によるさまざまな調整を検討することを通して,複雑にゆらぎ、発達する乳児の行為がどのようにして環境と結びついているのかを実証的に明らかにすることを目的としている. 本年度はこれまでに保育園の現場で蓄積された12組の乳幼児と養育者の10ヶ月におよぶ昼食場面の膨大なビデオデータの詳細な分析をまとめ、ミネソタ大学のThomas A. Stoffregen教授との国際共著研究論文として、発達科学・発達心理学・発達生物学の国際学術専門誌であるDevelopmental Psychobiologyに公刊した。 また、子どもの生活技能の発達において他者を含めた環境がもたらす機会について、複数の生活行為について検討した論文を公刊し、学会等での発表を行った。 これらの研究成果においては、日常環境の中で子どもが生活行為を獲得していく過程において、養育者による周囲の機会の調整と、乳児の注意のコントロールが二重に折り重なって生起していること、また、子どもの行為に対する養育者の応答に対して、さらに子どもの注意が導かれており、「規範」のようなものが知覚される機会が子どもと養育者のやりとりの中に埋め込まれていることなどを、具体的な事実とともに実証的に示している。 コロナ禍の影響で、本年度は新たな観察・実験は行うことができなかったが、これまでのデータを論文にまとめて公刊することができたため、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、現在蓄積しつつある乳児の日常行為獲得場面のビデオデータをもとに、乳児の行為が変化していく中で見られる養育者と乳児の共同行為において、乳児の 挙動特性と養育者による調整の関係を検討する。この作業を通して、状況に応じて毎回変動する乳児の行為と,乳児の行動に柔軟に同調する養育者の行為の呼応関係を縦断的に検討し、乳児の日常行為獲得を支援するプロセスに見られる共同行為が依拠する高次の変数を明らかにする。さらに、モバイルの視線計測装置を用いることによって、自然な日常場面における共同注意の形成、維持のダイナミクス特性を検討することを目指しているが、新型コロナウイルス感染症の影響で、現状では計測の見通しは立っていない。新たなデータを取得できるかどうかは未知数ではあるものの、最終年度は得られた定量的データの分析をもとに、状況や発達を反映して複雑にゆらぐ他者の些細なふるまいの変化に共鳴し,複雑な実世界環境の中で,他者の行為とやわらかく結びつくことを可能にしている情報について得られた知見を公刊する。
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Causes of Carryover |
コロナウイルス感染症の影響で、予算執行の予定に変更が出たため、若干の次年度使用額が生じた。翌年度分として請求した助成金とあわせ、最終年度の成果発表における学会参加費および旅費としての使用を計画している。
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Research Products
(8 results)