2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19002012
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
坂野 仁 The University of Tokyo, 大学院・理学系研究科, 教授 (90262154)
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Keywords | 匂い受容 / 嗅覚受容体 / 嗅神経細胞 / 軸索投射 / 糸球地図 / 匂い情報処理 / 先天的忌避行動 / 軸索選別 |
Research Abstract |
高等動物の嗅覚系において、匂い情報は嗅細胞軸索の投射スクリーンである大脳前方の嗅球に、糸球の発火パターンとして画像展開される。当グループでは、嗅球上の糸球マップがどの様に形成されるのかについて解析を行った。これ迄脳における神経地図形成は、Sperryの提唱したchemo-affinityモデルに従って、軸索末端のガイダンス受容体とターゲットに発現するリガンドとの間に生じる、競合的相互作用によって行われると考えられて来た。当グループでは最近、主嗅覚系の糸球マップ形成においては、ターゲットである嗅球にガイダンスキューの濃度勾配は存在せず、嗅細胞の軸索に相補的に発現する反発性のリガンドを介した軸索どうしの相互作用によってマップのトポグラフィーが構成される事を見出した。この新たな分子メカニズムは、脳における神経マップ形成の一般的ストラテジーとして普遍的に用いられている可能性があり、今後の研究の進展が期待される。これまで嗅球は、嗅上皮で受容された嗅覚情報を匂い地図として映し出す単なるスクリーンと考えられて来た。しかしながら当グループの研究によって、先天的な匂い判断と学習に依存した匂い識別の為の二つの神経回路は、嗅上皮の段階ですでに独立に情報を入力していることが示された。これらの知見は、マウス嗅覚系が進化の過程で、先天的本能判断の為の回路を温存させながら記憶に基づく学習判断の為の回路を独立に構築したことを示唆するものとして興味深い。本研究課題で進めている嗅覚に関する研究は、感覚情報の統合と分配という脳の高次機能の原理を理解する為の手がかりを与えるものとして重要であるのみならず、システムズバイオロジーとしてこれから大きな発展が見込まれる。ヒトの嗅細胞は、例外的に常時再生を繰り返す神経細胞であり、嗅覚系における神経再生因子や神経幹細胞の研究は再生医学にも大きな貢献をなすものと期待される。
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Research Products
(16 results)