2008 Fiscal Year Annual Research Report
電荷フラストレーション系の示す金属絶縁体転移のメカニズムと放射光による観測の理論
Project/Area Number |
19014020
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
求 幸年 The University of Tokyo, 大学院・工学系研究科, 准教授 (40323274)
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Keywords | 物性理論 / 強相関電子系 / 遷移金属酸化物 / 分子性導体 |
Research Abstract |
擬1次元系において、通常は物性に顔を出してこない、1次元鎖間に存在するフラストレーションの効果を理論的に明らかにした。具体的には、擬1次元分子性導体の代表物質のひとつであり、電荷秩序が有機系で初めて実験的に観測された例である(DI-DCNQI)2Agに着目し、この物質の示す電荷秩序と格子変位に対して、1次元鎖間の7倍周期をもつスパイラル的なフラストレーションが及ぼす影響を調べた。この物質では、最近放射光X線回折を用いた詳細な構造解析が行われ、低温における状態が、従来考えられて来たような単純な電荷秩序状態ではなく、電荷秩序、ボンド秩序(ダイマーモット)、および両者の共存した1次元鎖が周期的に配列した複雑な3次元秩序構造であることが示された。我々は、こうした3次元秩序構造を含めたこの系の物性の包括的な理解を目的に、1次元鎖間のフラストレーションをあらわに取り込んだ3次元拡張ハバードモデルの示す性質を、Hartree-Fock近似を用いて解析した。その結果、基底状態において、電荷秩序が支配的な領域と、ボンド秩序が支配的な領域の間に、電荷と格子変位のフラストレーションをうまく解消する形で、実験で観測された複雑な3次元秩序状態が安定化するパラメタ領域が存在することを見いだした。また、有限温度の性質も調べ、転移温度より低い温度で、格子変位が急激に成長する特徴的な温度が現れることを新たに見いだした。このことは、これまで統一的な理解が得られていなかった、赤外分光やラマン分光のデータの温度依存性、NMRのスペクトルの温度変化、誘電率や電気抵抗に見られる異常などを説明する可能性がある。我々の提案したシナリオは、様々な温度における放射光X線回折の系統的な解析や単結晶を用いたNMRなどの実験研究を大いに刺激している。
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