Research Abstract |
18年度は,生命の最も基本的かつ重要な機能のひとつを担うRNA・タンパク質複合体(生体内のタンパク質の合成に必須)に対して,溶媒等を含むりアルで精密な計算モデル(約170,000原子)を構築すると共に,特異的に結合した溶媒水分子の孤立電子対が,基質のLUMOを攻撃することによって反応が開始される機構を解明した(投稿中)。本19年度は,1)この酵素反応がどのように進行するか,ハイブリッドMD計算によりさらに解析を進め,反応過程における電子構造の動的な変化過程を解明した。その結果この酵素は,求核剤としての水分子の電子構造と配置とを巧みに制御することにより,高い反応効率と選択性を同時に生み出していることを明らかにした。2)このハイブリッドMD計算は,HF/DFTハイブリッド全電子計算(GAMESS)とMM計算(AMBER)とをQM/MMスキームにより組み合わせた独自の計算プログラムによるものである。このシステムを駆使した研究は,さらに本特定領域の他の研究グループを始めとして,幾つかの共同研究へと現在発展している。3)また,一般にこうした生体高分子の立体構造に広く見られる一部のファンデルワールス相互作用(芳香環同士のスタッキング)は,その重要性は裏腹に,従来の計算技術においては取扱いが極めて困難であった。本年度は,その計算精度をCCSD(T)のレベルにまで飛躍的に高め,なおかつMD計算が現実に可能な計算に抑えた高効率な手法の開発を進めた。これは,上記のRNA・タンパク質複合体系を含めて,さらにはタンパク質の折畳み問題などへの応用にも重要であり,こうした生物物理学の中心課題に対して,今後組織的な応用を展開する予定にある。
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