Research Abstract |
本研究は,分子内振動に由来する振動バンドのうち,同種分子間の共鳴的振動相互作用が強いものを利用して,混合液体系の分子レベル或いはナノメータースケールでの構造とその動的変化に関する問題を解決することを目的としている。今年度は次の成果を得た。 (1)Stockmayer流体の各粒子に1次元振動子を埋め込んだモデル液体系を対象とした計算を行うことにより,液体構造の微視的不均一性の程度に応じたノンコインシデンス効果の大きさの変化を定量的に評価した。本研究では,埋め込む振動子の振動数を2種類用意し,その各粒子への割振りに不均一性を持たせることにより,液体構造の微視的不均一性をモデル化している。計算の結果,液体構造に微視的不均一性が存在する揚合には,振動スペクトルのノンコインシデンス効果(NCE)相対値の濃度依存性を示す曲線が,2つの分子種の振動バンドについてともに上に凸となる傾向があることがわかった。実在混合液体では,液体構造の微視的不均一性をNCEの振舞いから評価する場合に,極性の相違も同時に考慮する必要があるが,NCEの濃度依存性が,極性の小さい分子種の振動バンドについても上に凸となれば,液体構造に微視的不均一性が存在することを示唆するものと考えることができる。 (2)アセトン/水混合液体系のC=O伸縮およびO-H振動モードを対象に,振動スペクトルの理論計算を行い,実験との比較検討を行った。計算には,時間領域のスペクトル計算法を用い,遷移双極子カップリング機構による分子間の共鳴的振動相互作用と,液体構造の揺らぎの効果を,同時に取り入れた。その結果,アセトン/水混合液体系には,液体構造の微視的不均一性が存在することが強く示唆された。
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