Research Abstract |
本研究の目的は大きな揺らぎが存在する媒体中での高分子挙動を理論的に調べる事であるが,今年度は一成分溶媒の気-液臨界点近傍および二成分混合溶媒の液-液相分離臨界点近傍での高分子鎖の普遍的挙動と特異的振る舞いについて明らかにした.古くから高分子物理の分野では高分子鎖は臨界点近傍で凝縮すると考えられてきた.しかしながら近年,幾つかの実験により,高分子鎖が膨潤する事を示唆する結果が報告されている.今回,我々は密度汎関数理論に基づく理論的解析から,一成分超臨界溶媒中では,高分子鎖が親溶媒的か疎溶媒的かに関わらず,普遍的に膨潤する可能性を示した.また,親溶媒性が強い高分子鎖の場合には,超臨界溶媒の密度揺らぎが理想気体のそれと等しくなる状態点において,特異的に凝縮する事も示した.前者の臨界点近傍における高分子鎖の膨張は,高分子の個性に依存しない事から,普遍的現象であり,後者の親溶媒性の強い高分子鎖に見られる凝縮は特異的振る舞いであると言える. 上記の気-液相転移における粒子と空孔の関係を,粒子1と粒子2で置き換える事により,二成分混合溶液での液-液相分離に対応させる事が出来る.二成分混合溶液中での高分子鎖は,どのように振る舞いのかを調べるために,上述の手法を適用し,解析を行った.それにより,高分子鎖が選択的親溶媒性を持つ場合,臨界点近傍において大きく膨潤する事が明らかと成った.一方,どちらの溶媒に対しても,疎溶媒性的である場合は,臨界点近傍で凝縮する可能性を示した.二成分混合溶媒の場合は,一成分系における空孔に対応した溶媒2の高分子鎖に対する親和性を制御する事が出来るので,一成分溶媒系では現れなかった,臨界点近傍での高分子鎖の凝縮的振る舞いも示唆される.
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