Research Abstract |
近年,核内にもイノシトールリン脂質(PI)代謝系が存在し,遺伝子転写やmRNAの核外輸送,クロマチンリモデリングなどに関わることが報告されている。さらに,PIは核内において細胞周期依存的にその分布や量を変化させることも報告されている。本年度は,細胞周期やストレス応答における,PI特異的ホスホリパーゼC(PLC),特にδ型アイソフォームの役割を明らかにすることを目的とした。 PLCδ1はPLCアイソフォームの中で進化的に最も基本形と考えられており,酵母にではこの遺伝子の欠損は細胞の著しい増殖抑制をもたらす。 PLCδ1は非刺激ほ乳動物細胞,非同調細胞では主に細胞質および細胞膜上に存在するが,細胞質分裂時においては分裂溝に局在化するごとを見出した。また,PLCδ3についても同様の結果を見出した。また,我々はこれまでにPLCδ1は細胞質と核の間を能動的に移行すること,核移行がインポーチンβとのCa^2+依存的な相互作用によっておこること,などを解明してきたが,PLCδ1核内移行の生理的意義は不明なままであった。本年度,他の研究グループによってPLCδ1がGl/S期に核内に移行することが報告された。そこで我々は,PLCδ1遺伝子ノックアウトマウス胎児繊維芽細胞を用いて,PLCδ1遺伝子再導入による細胞増殖に対する影響を調べたところ,その分子機構は不明なものの,対照細胞と比較してPLCδ1あるいは核標的化PLCδ1を発現させた細胞では細胞増殖が抑制されることが判明した。 さらにPLCδ3も細胞質と核内をシャトルし,通常状態ではPLCδ1と比較すると核内により多く存在することを見出した。 PLCδ1とPLCδ3の機能は一部重なっていると考えられ,これらの核蓄積と細胞周期制御との関係について現在,サイクリンやCDKなど代表的な細胞周期制御タンパクの量や修飾動態の変化などと関連づけて解析中である。
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