2007 Fiscal Year Annual Research Report
オキシトシン・受容体系による動物の社会行動樹立の性二型性制御メカニズムの解析
Project/Area Number |
19040001
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
西森 克彦 Tohoku University, 大学院・農学研究科, 教授 (10164609)
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Keywords | 母性行動 / オキシトシン受容体 / 性二型性 / 攻撃性 / 社会行動 |
Research Abstract |
本年は、社会行動に広範に異常を示すOtr-/-マウスの解析結果から、OTRが社会行動に必須であるメカニズムについて個体の細胞・分子レベルで明らかとする事を目指し、OTR-Venusknock-inマウス(OtrVenus/+)作製を試み、その解析から多くの情報を得ることに成功した。即ちOTR発現ニューロンにおいて蛍光タンハク質Venusを発現するknock-inマウスを作製し、作製したOTR-Venus knock-inマウス(OtrVenus/+)により、新たにOTR発現ニューロンで内在性のOTR遺伝子promotorの制御下でのVenus発現が見出された。OtrVenus/+マウスの脳の切片ではVenusによる蛍光が観察でき、脳スライスの生きたニューロンによる電気生理学的解析が可能であることを確認した。OTR antagonistによるOTR-bindingとVenusタンパク質の分布は一致し、OTRが主に細胞体と樹状突起に存在していることを見いだした。 雄OtrVenus/+脳においてVenusの分布を解析し、Venus発現細胞は脳全体に幅広く存在すること、これまでにOTRの発現が報告されているほぼすべての領域でVenus発現細胞が確認される事を見いだした。今回Venus発現細胞が観察された92領域のうち、31領域(33%)が現在までに発現の報告がない新規領域でる。またGrO、PFC、Pir、AccC、LS、MPA、BST、CoA、MeA、CeA、CA2、CA3、PoDG、PAG、DR、MnR等の、社会行動に関連する領域として報告されている脳内領域において中〜高程度の密度でのVenus発現細胞(=OTR発現ニューロン)を観察した。 社会行動に重要な役割を果たすドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンとOTR発現ニューロンとの関係を明らかにする為、セロトニン合成酵素のtyrosine hydroxylase(TrH)、ドーハミンニューロン、ノルアドレナリンニューロン合成に関わる神経でのオキシトシン受容体発現を観察した。この結果、OTR発現ニューロンがセロトニン、ドーハミン及びGABA型のニューロンであることを明らかにした。また、ノルアドレナリンニューロンが存在する領域(LC、NTS)ではOT投与によってノルアドレナリンの放出が起こるとの過去の報告と異なり、Venusの発現を見いだせないという興味深い結果を得た。DR、MnRにおいては多くのセロトニンニューロンでのVenusの発現を見いだした。細胞外液中の物質を微小透析プローブの半透膜を介して連続的に回収し神経伝達物質放出の動態を動物個体でモニタリングするマイクロダイアリシス法を用い、野生型マウスのMnRにプローブを挿入し、プローブからOTを局所投与したときのセロトニンの放出の変化を測定した。この結果MnRにおいてOTRはセロトニンの放出を促進することを見いだし、OTとセロトニンの機能的な関連をOtrVenus/+を用いで初めて明らかとした。 これらの実験結果はOT/OTR systemが社会行動に必須であり、OT、OTRの欠損が社会行動異常を示すことを、情動、社会行動との関連が指摘されているセロトニンとドーパミンとの関連で初あて説明した新しい発見であり、またOT-/-、OTR-/-マウスの解析、及びOtrVenus/+マウスの作製によりOTR/OT系の異常がセロトニン系の異常を介して社会行動、脳の発達に影響を与える可能性を初めて示したものと考えている。
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