2008 Fiscal Year Annual Research Report
突然変異導入マウス作製による哺乳類ミトコンドリアゲノムの生理的役割の全貌解明
Project/Area Number |
19100007
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
林 純一 University of Tsukuba, 大学院・生命環境科学研究科, 教授 (60142113)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
米川 博通 (財)東京都医学研究機構, 東京都臨床医学総合研究所, 副所長 (30142110)
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Keywords | ミトコンドリア / 突然変異型mtDNA / 呼吸欠損 / ミトコンドリア病 / 病態モデルマス |
Research Abstract |
本年度Scienceに掲載された論文では、mtDNAの特定の病原性突然変異ががん細胞の転移能に影響を及ぼし得る、という全く新しい概念をマウスがん細胞を用いて立証することに成功した。この研究成果は、国内のマスコミに加え、Cell,Nat.Med., Nat. Rev. Cancerなど多くの国際一流誌でも紹介され、世界レベルで大きな注目を集めた。本年度はさらに、mtDNA誘導性がん転移は、mtDNA突然変異によって起こる解糖系の上昇(ワーバーグ効果)ではなく、あくまで活性酸素種(ROS)の過剰産生が転移能獲得のための必須条件であることを示した(FEBS Lett., 2008)。この結果は、解糖系の亢進ががん細胞の悪性化を招くとした通説に対する反証であり、この通説が常に正しいとは限らないということを示したと言える。また、一部のヒトがん細胞においても、mtDNAの病原性突然変異が転移能獲得に関与していることを示唆する結果を得た。こうしたmtDNA突然変異から転移能獲得に至るまでのより詳細なプロセスの検討や、ヒトのがん細胞を用いた検証から得られる知見を応用することにより、がん細胞の転移しやすさの予測や転移の抑制に役立つ可能性があると考えている。 今年度はさらに転移を誘発する病原性突然変異mtDNAを雌型ES細胞に導入してキメラマウスを作り、さらにこのmtDNAを100%もつ新たな病態モデルマウスの作出に成功した。現在、この病態モデルマウスの各組織がROSの過剰産生をするかどうか、また生じた腫瘍は転移しやすいかどうかを検証中であう。本研究により、mtDNAの多型突然変異による細胞機能への影響についても新たな関わりを証明できると考えている。
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