Research Abstract |
過去の気候変動において,熱帯太平洋がどのように振る舞ったかを明らかにするために,熱帯太平洋の東西縁辺のコアについて古環境の復元を進めた.今年度は,東部太平洋パナマ沖,エクアドル沖,ペルー沖のコアの年代モデルを精密化するため,有孔虫をピッキングし,酸素同位体比の測定を行った.また,同じコアについてTEX86とアルケノンUK37'を用いて水温変動を復元した.水温変動の振幅はペルー沖コアのTEX86水温が最も大きく,ペルー沖湧昇域の亜表層水温が軌道強制に敏感に応答したことが示された.本年度は最終年度であったので,これまで得られた西太平洋域のデータと比較・総合し,熱帯太平洋の軌道強制力に対する応答についてとりまとめた.全体として,TEX_<86>により求められた古水温は熱帯太平洋では有孔虫のMg/Caから求められた古水温と良く一致した.水温変動は熱帯太平洋東縁が先行し,西太平洋暖水塊南縁,西太平洋暖水塊北縁の順で遅れて変動することが示された.また融氷期には,西縁南半球では降水量が増加したことが明らかになった.Mg/Ca比と石筍酸素同位体比の既報データもあわせて考察すると,融氷期には,太平洋東縁では冷水舌が縮小,西縁では暖水塊が拡大したと考えられる.西縁では,降水量は北半球で減少,南半球で増加したようにみえる.融氷期にはウオーカー循環が弱く,東アジア冬季モンスーンが強かったと仮定すると,水温・降水量の変化を整合的に理解することができる.
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