Research Abstract |
本研究は,9〜15世紀にわたり,現在のカンボジア王国を中心として繁栄したアンコール王朝を対象に,辺境を含む国土の様相と周辺諸国との地勢的関係の解明を目的として,当時の主要な街道に沿ってつくられた地方都市遺跡に注目し,建築学的・考古学的・地理学的調査を行うことで学術的な基礎資料の収集と作成を行う。 当該地域を対象とした100年の研究史は,従来アンコール地域(王都)とその周辺に限定して進められてきた。しかし,本研究は,地方に散在する都市遺跡,寺院遺跡の調査を通じてクメール時代の都市形態と建築の歴史に関する従来の知見を拡大することを目的としており,現在はその途上にある。今後,調査研究および遺跡の保存修復事業に資する基礎資料の構築を目指すとともに,十分な調査研究が行われてこなかった当該の地方都市,寺院遺跡の史的価値,学術的価値を正当に評価しうる調査資料を蓄積し,一般に公開することによって,クメール王朝の歴史の解明をめざし,放置されている文化財建造物の保全への道を開くとともに,同国の観光開発の一助となることを目指している。 平成20年度は,国内作業として19年度に収集したコー・ケー遺跡群のデータの整理作業を進め,あらたに発見した遺構を加えて遺跡目録を更新した。また,夏季,冬季,春季の3度の現地調査を行い,広域のGPS調査,遺跡の実測調査を進めた。また,これらの調査資料に基づいて,主要遺構の平面図を作成し,空中写真分析とGPS調査資料に基づいて,コー・ケー遺跡群の分布状態を示した地図を作成した。同時に,遺構の精査資料に基づいて,造営尺度の実長を求めて分析を進め,平行して伽藍の寸法計画,遺構の寸法計画の分析と設計手法の解明を進めた。 なお,年度の当初予定していたプレア・ヴィヘア州の遺構調査は,タイ国との国境地帯が軍事的に不安定な状態となったため,現地調査計画を大幅に縮小せざるを得なかった。
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