Research Abstract |
生体軟組織内部の残留応力分布ならびに大変形領域までの力学特性を細胞レベルの分解能で計測する手法を確立して実際の組織内の生理状態における微視的応力・ひずみ分布を可能な限り詳しく明らかにすることを目的として,3年間に亙る研究を進めている.研究2年目の本年度は,主に薄切試料をマクロに変形させた際の試料内部のミクロな変形を観察した.すなわち,凍結ミクロトームにより血管円周方向を含むように厚さ数10μmに薄切したブタ胸大動脈試料を対象とし,内部の平滑筋細胞核をHoechst 33342で,弾性板をトリパンブルーで染色した後,顕微鏡下で組織を円周方向に引張り,マクロな変形に伴い内部の弾性板や細胞核がどのように運動するのかを調べた.その結果,マクロな伸長に伴い,血管壁内部では細胞の伸長だけでなく回転も発生すること,また,弾性板の伸張量には部位により3倍近い差が差がある可能性があることなどが明らかとなった.しかし,試験を室温で行ったため,平滑筋細胞の能動収縮に伴う組織内部の変形を見ることができておらず,また,手動のマイクロマニピュレータを利用して引張を行ったために,観察部位を視野中心に保つことが困難であり,実験データの蓄積はまだ不十分である.また,前年度目標とした切断時の試料変形の詳細計測は,試料切断時の気泡発生を抑えるに至って居らず実現できていない.そこで,来年度は顕微鏡ステージ状に設置可能な恒温槽付き電動引張ステージを試作し,実験の効率化を進めるとともに,レーザによる切断方法についてより一層の検討を進める必要がある.
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