2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19300297
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
桐野 文良 Tokyo National University of Fine Arts and Music, 大学院・美術研究科, 准教授 (10334484)
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Keywords | 金属組織 / 腐食層 / 金属文化財 / 富化層 / 色揚げ処理 / 微細構造 |
Research Abstract |
Ag-Cu系合金の代表とて江戸時代に製作され2種類の明和5匁銀を試料として取り上げた。明和5匁銀は鋳造によ製作されたことが金属組織観察よりわかる。一つは表面が黒色で、もう一つが淡緑色をしている。STEMおよび電子線回折により表面層を解析したところ、黒色試料の表面はαCu相を中心にαAg相が混在しており、最表面に2~3μm厚さの亜酸化銅皮膜中に30nm直径の金属Ag粒子が分散している。これは、亜酸化銅層の生成にともないAgがはきだされたものと考えられ、そのAgにより光が散乱されるために黒色を呈する。この他に、黒色の硫化物も表面に形成している。腐食生成物は地金の金属組織に依存して生成物が異なる。これ対して、淡緑色の試料は表面がαAg相で最表面に10~2nmのCu_2O皮膜が生成しており、これらが保護膜として機能しているために腐食層が薄く変色が生じ難いものと考えられる。この結果は材料の耐食性を向上させるには材料自身の工夫の他に金属組織やその構造等を制御することが有効であることを示している。 Au-Ag系合金の代表として江戸時代に製作された文政一朱金(Au含有量が12mass%)を試料として取り上げ、表面腐食層の微細構造を解析した。場所により腐食状態が異なり、代表的な場所では最表面が硫化銀や塩化銀が検出され、その下にAu富化層、CuおよびαヘマタイトとAu富化層の混合層が順次積層した多層構造である。この結果から、この貨幣は鋳造後に色揚げ処理を行い表面にAu富化層を形成したことを示している。このような化学的に安定な富化層を表面に形成することにより、色彩効果に加えて防食効果を付加できる。 上述の他に、錆付け処理により炭素鋼上に生成する鉄酸化物の様々な処理とその微細構造を調べ、オキシ水酸化鉄を大気中での熱処理によりマグネタイトに変化し、耐食性が向上する。
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