2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19300297
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
桐野 文良 東京芸術大学, 大学院・美術研究科, 教授 (10334484)
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Keywords | 金属組織 / 腐食層 / 金属文化財 / 濃化層 / 色揚げ処理 / 微細構造 |
Research Abstract |
江戸時代の貨幣の一つである豆板銀(13%Ag-Cu合金)の表面層の構造を分光光度計および透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察、EDXなどにより調べた。主成分はCuで、色彩も銅の支配が強いと考えられるが、Cuのスペクトルの特徴が現れない。EDXの加速電圧を変化させて表面近傍の元素の分布を調べると表面にAgが濃化していることを示唆する結果を得た。これは地金の色がCuに近い色をしており、貨幣の経済的価値を付加するために表面に色揚げによりAg富化層を形成している。さらに、断面TEM観察によると、地金上にAgが90%以上の濃度の0.6μmの層があり、その上にCu_2Oの層が0.8μmの厚さに生成している。この層は5nmの円形の結晶粒子の周囲を非晶質部分が取り囲んでいる。Cu_2Oの層は地金上のAg濃化層に含有のCuが優先的に酸化して生成したものと考えられる。この層はAgの腐食を抑制する効果を有すると推察される。 次に、Ag-Cu合金上にAg濃化層の作製を伝統技法に従って試みた。表面を研磨した合金を梅酢中に12時間浸漬した。梅酢の主成分はリンゴ酸である。浸漬により表面色は銅色から白色に変化した。分光測定ならびにEDXによる測定からAg濃化層を示唆する結果を得た。断面TEM観察から1回の処理により形成する表面層は100μmと厚く、銅相中にナノメータオーダのAg粒子が分散しており、文化財試料とは異なる構造である。色揚げ処理は処理と研磨を繰返して行うことでAg濃度を高めていると推察される。
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