Research Abstract |
本研究では,富士山を主な研究地域とし,複数のトレーサーを利用した年代測定法を確立・適用し,これらの方法で,同一の地下水・湧水サンプルの絶対年代を求め,各測定法の精度,長所,短所を明らかにし,これをもとに富士山の地下水流動系と滞留時間を解明することを目的とした。 ^<36>Clの場合,核実験による1950-1957年の降下量上昇期と,それ以降1980年代にかけての下降期があり,1950-1980年の情報を得ることができる.過去の^3Hを用いた研究から,主な湧水・地下水は下降期に涵養されたものと考え,核実験起源^<36>Clを用いて推定を行ったところ,東麓では25-35年,南東麓では20年以下,南麓では25年以下,西麓では~30年という結果となった.1965年から1995年の先行研究で測定された代表的な湧水の^3H濃度を降水の^3H濃度の時系列変化と比較すると,南東麓・南麓よりも東麓・西麓において高い値を示しており,滞留時間がより長いことが示唆され,得られた年代は妥当なものと考えられる. 南麓における地下水の^<36>Cl濃度に注目すると,酸素同位体比が低く高標高で涵養されたもので値が低く,酸素同位体比が高くなるにつれて値が高くなる傾向がみられたことから,南麓の主要な帯水層の地下水は,50年前後の年代をもっていることが示唆される. 一方,フロンガス・CFCsによる結果では,多くの湧水が大気中濃度を上回る値を示し,工場などからの汚染が大きな制約条件となることが明らかとなった.年代の推定が可能であった地点の中で,東麓では^<36>Clによる推定結果と矛盾しない結果だったものの,愛鷹山周辺の自噴井では50年以上と推定され,^<36>Clによる30-35年という結果と整合しなかった.原因の1つとして,^<36>Clでは降下量の下降期を利用して推定を行ったが,実際は上昇期に相当する可能性も考えられた.この点は今後の課題であるが,現在測定中の^3Hなど他の同位体やCFCsを含めて総合的に判断する必要があると考えられる.
|