Research Abstract |
本課題の目的は,独自の自律型マイクロチップを用いた電気泳動によって,PCR不要の簡便な遺伝子識別法を実現することである.分離媒体であるポリジメチルアクリルアミド(PDMA)にはプローブDNAを固定化しておく.このプローブが,泳動してきたDNAの中から特定配列のものを選択的に補足・濃縮する,というのが本法の原理である.本年度は濃縮率の向上を目指して条件最適化を行なった.標的配列をがん遺伝子K-rasコドン61の周辺15塩基とし,正常配列と一塩基変異配列の合成DNAを試料に用いた.プローブとして変異体に結合する6,8,10,15塩基のDNAを用意し,それぞれPDMAとの複合体を作製した.これら複合体にさらにPDMAを添加したものを分離媒体に用いた.まず,PDMA濃度が高いほど試料の濃縮率が上がることがわかった.プローブが8塩基の場合,PDMA34%では濃縮率1400倍,18%で320倍,2%で35倍であった.PDMA濃度が低いと,プローブが無視できない速度で泳動してしまうため,濃縮率が低下すると考えられる.以降の実験には,技術的な上限濃度である34%のPDMAを用いた.次に,プローブ鎖長を変えて濃縮実験を行なった.最高濃縮率とマッチ/ミスマッチ選択比は以下のとおりであった.プローブ6塩基では860倍(選択比>20),8塩基で1400倍(選択比10),10塩基で1600倍(選択比2.3),15塩基で1400倍(選択比1.0,つまり識別不能).プローブ鎖長を伸ばすと選択比が悪化することは予想していたが,濃縮率が上がらないのは意外で,原因はまだつかめていない.濃縮のみでは必要な感度が得られない可能性が出てきたので,今後は信号増幅による感度向上を平行して検討する.後者の方法はイムノアッセイで成功した実績がある.
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