Research Abstract |
人間は蚊に刺されても痛みを感じない.これは蚊の針(口器)の直径が数10μmと小さく皮膚の痛点を避けるためだけでなく,口器が複数のパーツから成り,各パーツが有機的に協動して穿刺を容易にしているためと推察される.本研究では蚊の穿刺行動を観察し,それを参考にして穿刺時の痛みを軽減するマイクロニードルの開発を行う.機9年度は穿刺行動の観察に注力し,以下の成果を得た. 1)作動距離の長い光学レンズと高速度カメラ(秒1,000コマ撮影)を組み合わせた観察システムを提案し,業者と詳細な仕様打ち合わせを行って部品を選定し,納入した.蚊は生物の流れている血液に最も誘引される.平田雅之医師(大阪大学.助教)を研究協力者とし,ラットに麻酔を施し,呼吸による振動の影響を受けにくく,かつ透明な組織が観察しやすい下肢筋肉部分を切開により露呈させ,蚊にその部分への穿刺を行わせた. 2)口針が鞘状の下唇に納まる構造を有すること,子顎の外形はギザギザ形状をしていることを高速度拡大映像により確認した.従来は観察が困難であった咽頭,大顎の観察に成功した.さらに,咽頭から唾液を頻繁に出す様子,赤血球を高速に吸い取る様子の観察に世界で初めて成功した. 3)穿刺の際,子顎が先導的に進みアンカーの役割を果たし,2本の子顎の間のスペースに上唇が打ち込まれ,これを振動的に繰り返すことにより穿刺が進行することを,その穿刺スピード,同期タイミング等を含めて定量的に明らかした. 4)観察結果より子顎のギザギザの役割は,接触面積を減らして摩擦抵抗を減らす,鋸のように組織を切り裂くという目的よりも,上唇を打ち込むためのアンカーとしての役割が大きいことが明らかになった.次年度以降,このメカニズムをFEM解析により理論付けし,各針が独立して動ける複数微細針(外側2本が子顎を模擬してギザギザ形状を有し,その中央に上唇を模したメインの針が存する)を作製していく予定である.
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