2009 Fiscal Year Annual Research Report
欧州・朝鮮・南洋航路を中心とする戦間期日本における旅行記の比較文化的研究
Project/Area Number |
19320049
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
橋本 順光 Osaka University, 大学院・文学研究科, 准教授 (80334613)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大東 和重 近畿大学, 語学教育部, 准教授 (60434859)
鈴木 禎宏 お茶の水女子大学, 大学院・人間文化創生科学研究科, 准教授 (80334564)
須藤 直人 立命館大学, 文学部, 准教授 (60411138)
西原 大輔 広島大学, 大学院・教育学研究科, 准教授 (70286110)
李 建志 県立広島大学, 人間文化学部, 准教授 (70329978)
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Keywords | 欧州航路 / 和辻哲郎 / 富士山 / ペナン / コロンボ / ボート・サイード / 南部商会 / 李王垠 |
Research Abstract |
共同研究全体の成果として、一部をシンポジウム・学会発表で公開し、報告書を刊行した座標軸として和辻哲郎の『風土』(1935)を旅行記として注目することで、漫遊記を多く生み出した欧州航路、旅行者と移民の双方を運んだ南洋航路、そして主に労働者を「内地」へ供給した朝鮮航路と、性格の異なる三つの航路の記録を対比し、戦間期日本の心象地図の一側面を明らかにすることができた。おおまかな見取り図として、橋本が地域研究や観光研究を参照しながら、航路の比較文学の可能性を指摘した。朝鮮航路は、李が担当し、歴史的背景と旅行記を総覧しつつ、李王垠の洋行と対比した。南洋航路は、須藤が旅行者による表象と、南洋での伝統工芸創出という自己表象について、双方向的比較研究を行った、欧州航路の出発点である横浜は、海上から見上げる富士山が出国と帰国の感慨のなかで再発見されることを、鈴木が明らかにした。西原は、日本人のシンガボール体験を体系的に整理し、とりわけ欧州を見聞する前と後とでその記述が大きく変化していることを指摘した。コロンボについては橋本が日本人向けの宝石商ハシム商会が頻繁に登場することに注目し、遺族への聞き取りと遺品を発掘しながら、旅行者による記録を通覧した。山中は、ポート・サイードで旅行手配業を営んでいた雑貨商南部商会の記録を発掘し、遺族への聞き取りと遺品をもとに、その知られざる足跡を明らかにした。初めて踏むヨーロッパの地であったマルセイユについては研究協力者である児島由理が関連資料を博捜したうえで、その特徴とほかの欧州地域との見聞との差違を明らかにした。ロンドンについては、博物館見学が博物館としての英国という衰退論と重ねられる。一方で、欧州航路の寄港地の多くがいまだ英国の植民地であることが東西文明論と援用される経緯を橋本が指摘した。以上の共同研究により、和辻の『風土』が展開した文明論は、戦間期の旅行記という文脈に置くことで、心象地図という抽象化と類型化に大きく棹さした可能性が明らかになった。
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Research Products
(18 results)