2007 Fiscal Year Annual Research Report
ヘレニズム時代エジプト領域部における文化交流と二言語併用社会の研究
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19320096
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
周藤 芳幸 Nagoya University, 文学研究科, 教授 (70252202)
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Keywords | エジプト / ヘレニズム / プトレマイオス朝 / グラフィティ / 採石場 / ザウィエト・スルタン / 文化変容 / バイリンガリズム |
Research Abstract |
本年度は、ヘレニズム時代のエジプト領域部における二言語併用状況を考える上できわめて貴重な史料となるザウィエト・スルタン古代採石場のグラフィティに関する現地調査と、その分析を中心に研究を行うことにより、前3世紀のエジプト在地社会の様相の一端を明らかにした。具体的には、採石場に残されたギリシア語及びエジプト語(デモティック)のグラフィティについて、現地で登録と写真撮影を行い、残存状態の良好なものについては、1/5の実測も行った。とりわけ興味深い知見が得られたのはF区のグラフィティについてであり、そこでは、明らかに同一と考えられる日付に付された治世年の表記が、一貫してギリシア語とエジプト語では異なる(ギリシア語の治世年が一年新しい)ことが初めて確認された。この観察は、採石場に残された二言語併記グラフィティが、単なるエジプト語からギリシア語あるいはギリシア語からエジプト語への翻訳であったわけではなく、ギリシア語グラフィティで採用されている暦が財政暦であり、そもそも二言語併記が財政的な目的から行われたものであったことを証明した点で、きわめて貴重な成果となった。また、これらのグラフィティの年代については、採石場の上部においては治世年が39年の途中で断絶することからプトレマイオス2世のものである可能性がさらに高まった。本年度は、これらの知見に基づいて、アレクサンドリアとテーベという二つの極のあいだで政治的に揺れ動いた前3世紀の中エジプトの状況について考察した論文を執筆し、欧文ORIENT誌に投稿して受理された。また、平成20年3月には、本研究を幅広い歴史的・考古学的文脈に位置づけるためにコロキアム「前一千年紀のエジプト社会と文化変容」を名古屋大学において開催した。
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