2009 Fiscal Year Annual Research Report
ヘレニズム時代エジプト領域部における文化交流と二言語併用社会の研究
Project/Area Number |
19320096
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
周藤 芳幸 Nagoya University, 文学研究科, 教授 (70252202)
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Keywords | エジプト / 砕石場 / ヘレニズム / 文化交流 / デモティック / プトレマイオス3世 / プトレマイオス4世 / ギリシア語 |
Research Abstract |
本研究は、ギリシア語及びデモティックによる膨大な未刊行グラフィティが残されている中エジプトのザウィエト・スルタン古代採石場遺跡の現地調査を中心として、ヘレニズム時代、とりわけ紀元前3世紀のエジプト領域部を舞台として展開された文化変容の過程を跡づけることを大きな目的として据えている。この目的のもと、平成21年度も現地においてグラフィティの登録、実測、転写を行うことにより、平成22年度内の完成を予定しているこの採石場の最終報告書作成に向けての作業を行った。具体的には、谷の西側にある横穴ギャラリーを中心にグラフィティの精密な転写を行うことで、採石作業の現場における二言語併用状況を解明する研究をを進めた。その結果、砕石場の全体において、紀元前3世紀半ばからの数十年間の間にギリシア語の使用が一般化したこと、砕石場の区域ごとの作業集団にはエスニックな相違が見られる可能性があることなど、興味深い知見が得られつつある。たとえば、谷の東側のF区では明らかにエジプト系と見られる人名が頻出するのに対して、西側のU区横穴ギャラリーでは古典的なマケドニア名が卓越するという様相が明らかになっている。また、平成21年度の調査では、谷の底部(Q区)で一部の堆積層を除去することにより、治世第26年と治世第2年とのグラフィティが併存することも確認され、これがプトレマイオス3世から同4世にかけての時期に対応することが判明したことは、本年度の大きな成果である。これらの成果については、平成22年8月に国際パピルス学会で報告する予定である。
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