Research Abstract |
本研究においては,伝統的経済学が想定している自己利益のみを追求する利己的人間像を離れ,相手の利得の大小も重要な判断要因となる主体を,オークションという競争的環境で考察している。特に,相手の利得を下げてほくそえむ「スパイト」的主体と,そのスパイト意図に反応して報復する互恵的主体を考えている。H21年度では,これまで行った「競り」方式と「第2価格入札」方式における入札行動の理論と実験分析成果を論文にまとめ,現在,査読つき学術雑誌に投稿中である。また,オークションの基本形のうち残る2つの方式である「第1価格入札」と「ダッチオークション」の分析を開始した。この2つの方式は,利己的主体を想定した既存理論によれば,一定の商品に対する評価仮定の下では同値になると知られているが,実験室ではダッチオークションの方が低い価格を形成することが観察され,長期にわたって原因は不明とされてきた。本研究において,相互スパイト的な主体を想定した場合には,既存理論と異なる均衡入札集合が特定でき,これによれば,競争相手の状況が完全にわかっている場合も,わかっていない場合も,上記2つの方式の同値性は崩れ,主体間における心理的相互作用によって,形成される価格はダッチオークションの方が低くなることを明らかにした。この心理的効果は,競争相手に関する情報が完全なときに観察しやすいことから,2つの情報条件を使った比較実験分析でより明らかにできる可能性が高い点で,検証性に優れている理論仮説と言える。H21年度にまとめた実験分析においては,上記の仮説はほぼ支持されたと言え,これまでのオークション研究に一石を投じる内容だと期待される。 H22年度には,実験データの精緻化をはかり,論文にまとめ,査読付き学術雑誌へ投稿する予定である。また,関連する研究として,互恵的心理作用がある場合の,リスクに対する選択行動分析にも着手したい。
|