Research Abstract |
代表的な半導体であるSi,Ge,グラファイトや,有機半導体などでは,伝導電子の持つスピン軌道相互作用が弱く,スピン偏極の情報が格子に伝わらないために,レーザー光磁気Kerr効果(MOKE)などの光学的方法を用いることができない.これらの半導体中での伝導電子スピン偏極(CEP)を測定する実験技術を確立し,新しいスピンエレクトロニクス材料の機能を開発することを目的として,英国理研RAL研究所ミュオン施設に,ミュオンパルスと同期したパルスレーザースピン偏極系を平成19年度に構築した.平成20年度は、このミュオン・レーザー実験系をさらに改良してスピン偏極度を向上した.さらに、他の磁気光学的手段と定量的な比較を行うために、歪みを除去したGaAs結晶中のレーザー励起CEPを、磁場、温度、レーザー波長・強度を変えて、測定した.磁場や横磁場でもスピン非対称性が顕著に観測されたことから,ミュオニウムスピン交換反応の機構が,当初予想した機構より複雑であることがわかった.さらに歪んだGaAsを蒸着したシリコン基板を用いた,2種類のモデル標的について,常温と20Kにおいて,ミュオニウム生成率の測定を行い,レーザー光照射による非対称性の変化がレーザー波長に敏感であることから,光誘起キャリアをSi基板に注入できたことが検証された.ミュオニウムスピン交換反応測定法では,スピン編極したミュオニウムを対象とする半導体に導入し,スピン偏極した電子との間の交換反応によって,高感度に,かつ実験条件に大きな自由度を持たせて,半導体中のCEPを精度良く測定することができる.CEPによりミュオニウムのスピン偏極が変化しその変化をミュエスアール法で検知できるからである.この方法はほぼ如何なる半導体に適用できて,温度等の外的条件によらないため,広い応用実用分野の展開が期待される.
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