Research Abstract |
過去の地球環境を復元する際に用いられる試料としてサンゴや有孔虫等の生物が作りだす殻や骨格などが挙げられる.特に,近年では,サンゴや有孔虫等の炭酸塩生物殻の物質的側面,すなわち同位体・化学組成に注目し,より精度高く水温を推定する手法が開発されつつある.そして,生物起源炭酸塩を用いた研究では,定量的な環境復元に向けての環境支配因子の間接指標(Proxy)の開発,その基礎となる生物鉱化作用(Biomineralization)の研究が併行して進行しており,近い将来ますます発展するものと期待されている.今回,上記の幾つかの因子を精度高くモニターした上で,サンゴの精密飼育実験を行ない,その骨格を分析した.恒温水槽飼育サンゴ骨格の酸素同位体比と水温の関係については,同飼育温度区,例えば飼育温度21℃'(誤差0.1℃)の場合,試料によって骨格の酸素同位体比に約1.5パーミルの差がでてしまった.酸素同位体比のばらつきが速度論的効果により,説明されることを意味している.このように速度論的効果が発現するのは,換言するとサンゴが同位体交換以上の素早いスピードで石灰化し,その効率が非常に高いためと解釈できた.次に,同じ骨格について,Sr/Ca,Mg/Ca,U/Caについても分析を行った.その結果,Sr/Ca,U/Caは,.以前から言われているように水温に依存していたことが確認されたが,Mg/Caは水温でなく,骨格形成速度と密接な関係のあることが今回初めてわかった.これらの事実は,Mgについても酸素同位体比で観察されたように,速度論的効果が非常に聞いていることが示唆された.今後はサンゴについても別種のものについて,同様の解析を行う予定である.
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