Research Abstract |
過去の地球環境を復元する際に用いられる試料としてサンゴや有孔虫等の生物が作りだす殻や骨格などが挙げられる.特に,近年では,サンゴや有孔虫等の炭酸塩生物殻の物質的側面,すなわち同位体・化学組成に注目し,より精度高く水温を推定する手法が開発されつつある.そして,生物起源炭酸塩を用いた研究では,定量的な環境復元に向けての環境支配因子の間接指標(Proxy)の開発,その基礎となる生物鉱化作用(Biomineralization)の研究が併行して進行しており,近い将来ますます発展するものと期待されている. 環境因子を精度高くモニターした上で,サンゴの精密飼育実験を行ない,その骨格を分析した.その結果,サンゴ骨格中の微量元素比について,U/Ca比が過去の海水のpH(pCO_2)復元の間接指標として有用である可能性が示された。Sr/Ca比については、海水のpCO_2および骨格成長速度との依存性が見られなかったため,これまで報告されている古水温復元の間接指標としての信頼性が高まつた.また,コユビミドリイシの成体の骨格のMg/Ca比と骨格成長速度とに相関が見られたことから,Mg/Ca比は成長速度依存性があり生物学的効果を受けやすい事が示された. コユビミドリイシ幼サンゴのBa/Ca比とpCO_2とに相関が見られたが,成体については相関が見られなかった.Ba/Ca比は主に水温,陸源物質の流入や湧昇の指標としての報告がされており(McCulloch et al., 2003),海洋環境中の様々な要因に起因する微量元素である.今回の結果に関して,なぜ幼サンゴのBa/Ca比とpCO_2との間に相関が見られたのかは不明な点が多いが,Inoue et al.(submitted)の結果では褐虫藻を取り込んだ後の幼サシゴのBa/Ca比とpHとに相関が見られたことが報告されている. 酸性化海水に対する石灰化の応答に関しては,コユビミドリイシの着底直後の幼サンゴの石灰化に負の影響が生じる可能性がある.1000ppmまでの海水のpCO_2環境下では、褐虫藻の光合成への影響はほとんど現れないことが示された.一方で,pH7.4までの低pH環境下で8週間の飼育を行ったハマサンゴの骨格成長率は,pHの低下に伴って有意に低下した.また光合成活性もpHの低下と共に低下することが確認された.
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