Research Abstract |
平成20年度は研究計画に従い,主に下記のテーマに関する研究を実施した. (1)炭素を骨格とするフラーレンやカーボンナノチューブ(CNT)への水素透過過程の理論提案水素原子透過過程については,これまでホウ素を不純物としてCNTの炭素と置換していたが,フッ素付加により可能になることを証明し,論文による発表を行った.引き続き,水素分子での可能性を探索している. (2)分子の回転運動と非断熱遷移過程の解析 大気化学・大気科学において,N_2OやOCS分子の光解離過程が脚光を浴び続けているが,成層圏で起きる同位体濃縮現象の解明に非断熱遷移の可能性を探った.これまでに判明したことは,OCSは非断熱遷移を起こすが,光を吸収することによって最終的に決まる吸収スペクトルにおいて,非断熱遷移および同位体による効果が,殆ど見られなかった.つまり,吸収スペクトルは断熱的に決定されている系であることが判明するとともに,硫黄原子のみを変えた同位体種では,同位体非依存過程であることが予想された.世界的にも新たな発見となった. (3)蛍光タンパク質内プロトン移動反応に関する理論研究 本テーマにおける理論およびプログラム開発において,大きな進歩を得た.具体的には,半古典論により3原子系ではあるがH_2Sの光解離過程において,厳密量子解とかなりの精度で計算結果が一致した.H_2Sの光解離過程は,垂直励起付近に非断熱遷移を起こす領域があることが判明していて,非断熱遷移を考慮したダイナミクスにより,実験で観測される吸収スペクトルとの一致をみない系であることが分かっている.我々のプログラムでは,見事に実験値を再現することに成功した.今後は,蛍光物質等へ応用する.
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