2008 Fiscal Year Annual Research Report
最適化極短パルスを用いた多原子分子反応の実時間構造追跡と制御
Project/Area Number |
19350017
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
竹内 佐年 The Institute of Physical and Chemical Research, 田原分子分光研究室, 専任研究員 (50280582)
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Keywords | 時間分解分光 / フェムト秒パルス / 多原子分子 / 光異性化 / インパルシブラマン / 分子振動 / コヒーレンス / 非調和結合 |
Research Abstract |
本年度はまず、時間分解インパルシブ・ラマン分光を用いてシス-スチルベンの構造変化に関する研究を進めた。我々は昨年度、反応性S_1状態に特徴的な振動が時間とともに低波数シフトを示すことを見出した。今回、溶媒をヘキサデカンからメタノールへとかえて実験を行ったところ、異性化速度の変化と同様に、低波数シフトの速度も約2倍大きくなった。従って、低波数シフトは異性化に伴う分子構造の変化に対応したものと結論した。つまり、この実験結果は、異性化に伴う分子のゆっくりとした構造変化と振動モードとの間の非調和結合により、このモードの力の定数が時間とともに小さくなる、と考えることで説明できる。さらに理論グループとの共同研究としてS_1状態の量子化学計算を行い、観測された振動数変化をほぼ完全に再現することができた。この結果、シス-スチルベンの異性化では中央の2つの水素原子の面外変位によりC=C結合まわりのねじれが引き起こされていることがわかった。これら一連の研究結果は反応分子の連続的な構造変化の可視化を可能とした画期的な成果としてScience誌に掲載された。 現在、この新しい分光法を使った構造変化の研究は対象を新規な超高速反応系にも拡げて展開中であり、すでにヤーン・テラー変形を示す有機金属錯体において興味深い信号が得られつつある。 一方、励起分子に最適なタイミングで振動コヒーレンスを生じさせる実験の準備も進めた。この実験に使用する位相変調光の位相構造を調べるための偏光ゲート型FROG(Frequency Resolved Optical Gating)装置を製作し、FROGトレースを取得するためのプログラムとそれから位相構造を割り出すためのプログラムの開発も終えた。現在のところ、データの取得と解析を含めて、数秒程度でパルス光の位相構造を評価することができるようになった。
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