Research Abstract |
本研究の目的は,低速陽電子ビームや各種の表面・界面評価方法を用いて,従来から用いられてきたSi酸化膜および窒化膜の本来の性質を引き出すための物性研究を行うことである.試料に打ち込まれた低速陽電子は,試料中で後方散乱の効果を強く受けるため,イオンビーム等のように質量が重い粒子の打ち込みの場合と比較して,空間的に広い阻止プロファイルを示す.よって,試料中の任意の場所に陽電子を打ち込もうとしても,その周辺に有限の広がりをもってうちこまれ,ROI(Region of interest)以外の領域がノイズとして混入する.試料中の電場勾配を利用して,陽電子の拡散方向を制御し,任意の場所に陽電子を集めることは可能であるが,試料の誘電率やキャリア濃度等に制約を受けやすい.一方,陽電子ビームを試料に対して斜方向に打ち込めば,幾何学的に陽電子の深さ分布を制御できる.ただし,この場合,陽電子ビームの径が十分狭いことが必要である.よって,本年度では,陽電子ビームを縮小するシステムを設計,構築することにより,陽電子斜方向入射の準備をおこなった.具体的には,前年度までに開発した低速陽電子ビームの後流に,薄膜モデレーターを設置し,10-30keVに加速された低速陽電子ビームを,NiないしはW薄膜に注入する.拡散により薄膜の反対側から真空中に放出された陽電子を磁場と電界でビーム化し,さらに2次収束磁場レンズで試料に打ち込む.本年度では,装置の設計,製作までを行い,縮小低速陽電子ビーム実験の準備を完了した.以上に加えて,誘電特性により表面,界面近傍に生じた微少な電界を,陽電子を任意の試料深さに打ち込むことにより検出する手法に関するノウハウを蓄積した.陽電子を正の電荷を持つ試電荷として利用することにより,界面付近に生じた電界による電子蓄積,ピエゾ歪みによる電界について知見を得ることができるようになった.
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