2009 Fiscal Year Annual Research Report
樹木個体群における自然選択に対する遺伝適応の実態解明
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19380081
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
後藤 晋 The University of Tokyo, 大学院・農学生命科学研究科, 准教授 (60323474)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北村 系子 独立行政法人森林総合研究所, 北海道支所, 主任研究員 (00343814)
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Keywords | 光合成 / 表現型可塑性 / マイクロサテライト / クライン / 分布変遷 / 産地試験 / 局所適応 / 標高 |
Research Abstract |
本年度は、昨年度に引き続き、標高別造林試験地のクロロフィルなどの生理形質の測定を行った結果、形態形質と同様に標高に応じたクラインが検出され、形態形質同様に生理形質も遺伝的な支配は低く、逆に可塑性が高いことが示された。 次に、マイクロサテライトマーカーを用いて集団ごとの遺伝的多様性と遺伝的分化度の測定を行った。その結果、土壌母材による遺伝的多様性の違いは検出されなかったが、標高が高いほど遺伝的多様性パラメータの一つであるアレリック・リッチネスが高くなるクラインが認められた。花粉分析の結果から、氷河期以降の分布変遷を考えてみると、縄文海進が起こった温暖化時期(4000-8000年前)にアカエゾマツは高標高に追いやられて、低山帯では隔離小集団が形成していたことが、現在の遺伝的多様性クラインを形成する要因になっていると推測された。 さらに、8林班の湿地林産と9林班の高標高産を植栽した産地試験地において、次代苗の樹高と根本径を測定し、種子産地の環境が次代苗の生存や成長に及ぼす影響を検討した結果、いずれの成長形質も母樹間で有意な差があるものの、産地間で有意な差がなかった。このことから、成長形質についても種子産地環境にはよらないことが示された。 これまでに行われてきた研究を総括すると、顕著な生息域に分布するアカエゾマツについて9の天然集団を対象として、シュートおよび個葉の形態、生理、遺伝形質を調べた結果、湿地と火山礫という土壌母材では明瞭な傾向が認められないが、標高に応じた形態形質(葉密度、個葉の厚み)、生理形質(クロロフィル量)の明瞭なクラインが認められることが明らかになった。これらのクラインは、同一種子産地の次代苗を異なる4標高域に植栽した標高別造林試験地でも同じ傾向であった。 したがって、アカエゾマツの厳しい環境への適応は、外部形態や生理形質の可塑性によっており、それぞれの環境に遺伝的に固定しているわけではないことが示された。この結果は同じ山地斜面で標高に対して強い遺伝的な適応を示すトドマツと対照的であり、巌しい環境に対する適応メカニズムがモミ属とトウヒ属で異なるという新たな仮説を導くことができた。
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