Research Abstract |
崩壊発生限界雨量を解析する為に,A:土層内に「水みち」が形成されるプロセスを室内実験により解明すること,B:自然斜面内部の水みちを探査する手法を確立すること,C:自然斜面の水みちの発達具合と排水能力を解明すること,D:人工降雨実験により自然斜面を崩壊させ「水みち」の影響を解明すること,を計画していた。Aでは,水路に充填した土層に1ヶ月にわたって給水して,水みちが発達する課程をモデル化した。Bでは,水分計付貫入計と高密度電気探査と組み合わせることで新たな探査手法を開発し,土層内に存在する基岩からの湧水点と,そこから発達した水みちの形状を探査することに成功した。Cでは,この湧水点を有する斜面において詳細な水文観測を実施し,「水みち」が雨水の排水経路として機能する様子を解明した。 項目A,B,Cの結果,土層内に発達した水みちが,降雨流出に支配的な影響を及ぼしていることが判明した。よって,水みちが崩壊に与える影響を解明すること(項目D)が,崩壊予測において重要であることが明確となった。ただし同時に,項目Dで計画していた人工降雨実験では,不十分であることも明らかとなった。その理由は,水みちの発達と浸透水の挙動に重要な影響を持つ基岩湧水は,数ヶ月にわたる先行雨量の影響を受ける上,その集水域が表面地形の集水域とは異なる為,人工降雨では正確に再現できないからである。さらに,林地斜面の降雨は樹木により林内雨と樹幹流に分離され,大きな空間不均質性を示す為,地表面に直接人工降雨を散布しても自然状態を再現できないことも問題である。このようなことから,自然斜面の崩壊機構を解明するには,自然降雨によって崩壊が起きる時の土層内部の状況を克明に計測する必要があるとの認識に至った。以上の結果に基づきH22年度には,当初の研究計画の一部を見直していく予定である。
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