Research Abstract |
1.コナラ属樹木の種子(堅果)は被食防御物質タンニンを多量に含む。そのため,森林性齧歯類のタンニン耐性の違いは,採餌行動や個体群動態,種子散布行動,ひいては樹木の更新過程にも影響を及ぼすと予測される。本課題では,タンニン結合性唾液タンパク質(PRPs)とタンナーゼ産生細菌(TPB)をタンニン耐性の指標として,日本産齧歯類におけるタンニン耐性の種間及び種内変異を解明する。さらに,その違いが対象種の生態にどのような影響を及ぼすかについて検討する。 2.岩手県盛岡市近郊における齧歯類4種のタンニン耐性の解明:森林性齧歯類3種[アカネズミ(アカ),ヒメネズミ(ヒメ),ニホンリス(リス)]及び草地性齧歯類1種[ハタネズミ(ハタ)]を対象として,PRPs活性とTPB保有量を明らかにし,タンニンに対する耐性の評価を行った。その結果,TPBはハタが他の3種よりも著しく低いことが判明したが,森林性齧歯類種間では違いが認められなかった。加水分解性タンニンに対するPRPs活性はアカ=ヒメ>リス>ハタであったが,縮合型タンニンに対してはヒメ>アカ=リス>>ハタであるこ判明した。これらの結果は,対象種の食性から予測される結果とは必ずしも一致しなかった。また,アカ,ヒメに関しては,タンニン耐性に著しい種内変異が認められた。 3.ニホンリスの堅果利用効率:2個体群のリス(山梨県河口湖及び東京都八王子市高尾)にコナラ堅果のみを供餌し,タンニンによる負の影響を測定した。高尾産のリスは高い死亡率を示し(河口湖産は100%生存),タンニン耐性に著しい種内変異があることが示唆された。この違いは,両地域におけるリスの食性の違いを反映していると考えられた。
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