Research Abstract |
ティラピアを脱イオン淡水(DFW),淡水(FW),1/3海水(1/3SW),海水(SW)に一週間馴致し,走査型電子顕微鏡を用いて鯉表面に存在する塩類細胞の開口部を観察するとともに,塩類細胞のマーカーとして知られるナトリウムポンプに対する抗体を用いて免疫染色を行い,塩類細胞の形態を比較した。DFWでは微絨毛が密に存在する開口部が大きく広がり,イオンを取り込むための表面積を広げている様子が観察された。一方,SWでは塩類細胞の大きさが有意に大きくなることから,側底膜の表面積を広げていることが確認された。次に,real-time PCR法により,塩類細胞のイオン輸送を担っていると考えられているイオン輸送タンパクNa+,K+,2Cl-共輸送体1a(NKCCla),Na+/H+交換輸送体3(醐E3),H+ポンプ(V-ATPase),さらに近年新たに発見されたNa+,Cl-共輸送体(NCC)のmRNA発現量を比較した。外界の浸透圧上昇に伴ってNKCClaの発現量が,また浸透圧低下に伴ってNHE3,NCCの発現量が高くなった。この結果から,MKCClaは高浸透圧適応(海水適応),NHE3,NCCは低浸透圧適応(淡水適応)に重要なタンパクであることが示唆された。また,免疫染色の結果より,高浸透圧環境下ではNKCClaが側底膜上に存在する塩類細胞が,低浸透圧環境下ではNHE3もしくはNCCが頂端膜上に存在する塩類細胞が多く存在した。これらの結果より,NKCClaが側底膜上に存在する塩類細胞(淡水型)がイオンを排出し,NHE3もしくはNCCが頂端膜上に存在する塩類細胞(淡水型)がイオンを取り込むと考えられた。また,体液と等張な1/3SWでは,淡水型と海水型の両方の3類細胞が存在したことから,浸透圧調節を行う必要がない等張な環境でも,ティラピアは低浸透圧適応と高浸透圧適応の両方の機構を有し,環境水の浸透圧変化に備えていることが示唆された。
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