Research Abstract |
本研究では、海水魚が浸透圧調節のために腸管内で形成するカルシウム沈殿の形成メカニズムと形成意義を解明するため、ウナギを用いて以下の実験を行った。(1)カルシウム沈殿の元素分析・結晶構造解析・分子構造解析 カルシウム沈殿は粘液に包まれた直径1-5μmの球状構造の集合体であった。構成元素はCa,Mg,C,O,P,Sであり、主要元素Ca,Mgは全体の77.0%,22.5%を占めていた。さらに結晶構造解析、分子構造解析を行った結果、カルシウム沈殿は一部がマグネシウムカルサイト(炭酸マグネシウムと炭酸カルシウム の混合物)として結晶化し、残りは水分子を含む非晶質であることが分かった。(2)Ca^<2+>,Mg^<2+>と重炭酸イオンの由来 ウナギを低Ca^<2+>,低Mg^<2+>海水で飼育したところ、カルシウム沈殿量は減少した。これよりカルシウム沈殿は外部環境である海水のCa^<2+>,Mg^<2+>に由来することが強く示唆された。さらに重炭酸イオンの由来を検討するため、重炭酸イオン分泌器官候補の膵臓および胆嚢の除去個体を作成し、カルシウム沈殿量を測定した。膵臓除去個体で顕著にカルシウム沈殿量が減少したことよりカルシウム沈殿形成に必要な重炭酸イオンは、腸の他に膵臓からも分泌されることが示唆された。(3)重炭酸イオン輸送体の同定 膵臓、腸の上皮細胞から重炭酸イオン輸送体solute carrier (SLC)4および26ファミリー、Cl^-/HCO_3^-チャネル(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator : CFTR)を網羅的にクローニングし、得られた遺伝子配列をもとに遺伝子特異的プライマーを作製し、組織別発現解析を行った。膵臓ではSlc4a8, Slc26a1, Slc26a6A, CFTRが発現し、腸ではSlc4a2, Slc26a1, Slc26a3, Slc26a6B, Slc26al1, CFTRが発現していた。さらにリアルタイムPCRにより海水適応下で発現が上昇した輸送体を選別した。膵臓においてSlc26a1, Slc26a6A、腸においてSlc26a1, Slc26a3が海水適応下で重炭酸イオン分泌に関与することが示された。以上の結果、魚類の腸管内で形成されるカルシウム沈殿について、生理学的観点より包括的な理解が得られた。
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