Research Abstract |
無脊椎動物,とくに産業的に重要な軟体類については,その品質を大きく左右する筋肉タンパク質に関する知見が少内ない。本研究では,軟体類筋肉の主要なフィラメント形成タンパク質を対象に,一次構造および高次構造と熱安定性との関係について詳細な検討を加えることを目的とした。 スルメイカ,ヤリイカおよびコウイカの外套膜筋およびマダコ足筋から,ミオシン重鎖をコードする遺伝子をクローニングし,コード領域の塩基配列からアミノ酸配列を演繹した。得られた配列に基づきATP結合部位,アクチン結合部位など機能ドメインの同定を行つた。さらにフィラメント形成能とコイルドコイル構造との関連性について他生物種のミオシン重鎖との相違点を明らかにし,ミオシンが機能を発揮する上で必須な一次構造の特徴を解明した。なかでも,頭足類ミオシン重鎖では共通して,ロッド領域において「スキップ残基」とよばれる,コイルドコイル形成を妨げるアミノ酸が周期的に点在することを初めて明らかにした。また,フィラメントを形成するミオシン重鎖テール領域に相当する30マーのペプチドを合成し,示差走査熱量分析および円二色性測定により測定し,軟体類ミオシンに特有な熱力学的性状を明らかにした。一方,分子全長がコイルドコイルを形成するトロポミオシンについては,精製タンパク質の熱力学的性状の解明,ホモロジーモデリングによる立体構造の推定を行うことにより,一次構造の特徴,二次構造の配置と機能部位とを関連付けて詳細に検討し,また,アレルゲンとしての観点からエピトープとなりうる一次構造上の特徴をつきとめるなど,軟体類トロポミオシンの特性を明らかにした。そのほか,筋肉の構成タンパク質についてプロテオミクス的な解析を行った結果,複数の新規タンパク質成分を見出した。この結果は,軟体類の筋収宿を調節する未知のタンパク質成分が存在することを示唆する。
|