Research Abstract |
有明海北部の底泥試料を18地点からエックマンバーシで採取し,これらの試科の鉱物学的・化学的・物理的性質を調べた。鉱物学的性質については,2μmの粘土画分を用いてX線分析を行い,粘土鉱物を同定した。主にスメクタイト,カオリナイト,イライトが含まれており,その相対的含有量は場所により大きく変化した。これは流入河川からの懸濁物質の組成の違いによると考えられる。化学的性質としては,底泥中の重金属(Pb,Cu,Zn,Cd)濃度,有機物含有量,硫化物含量,陽イオン交換容量(CEC),炭酸塩含有量を調べた。重金属については,Pbが9.5〜24.1mg/kg,Cuが10.2〜63mg/kg,Znが33.5〜156mg/kg,Cdが0.04〜0.82mg/kgであった。有機物含量は,0.6〜3.0%,硫化物含量は0.02〜0.45mg/g,炭酸塩は0.03〜17%の範囲であった。CECは,17.4〜25.3cmol_c/kgであつた。物理的性質にっいては,液性限界が50.5〜141.7%,塑性限界が27.6〜50%であった。2μm以下の粘土分は,18〜40%の範囲で変化した。 諸性質の場所的な分布を見ると,有機物含量は,湾奥西側と諌早湾沖で高くなる傾向にあった。有機物含量の高い地点は,粘土質の地点とほぼ一致している。これは,河川中の細粒子が有機物と結合して海水中で沈降し,底泥になった結果である。底泥中の重金属総量の分布は,有機物含量のそれとほぼ一致しており,各重金属の濃度と有機物含量の間には,いずれも有意な正の相関が認められた。有機物を人為的に分解除去した試料について鉛の吸着試験をした結果,鉛の吸着量は有機物分解前に比べて減少し,その減少量は,有機物量の分解量が多いほど大きかった。以上の結果は,有機物の陽イオン交換容量は大きく,重金属が有機物と特異的に吸着しているためにもたらされたものである。
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