Research Abstract |
初年度,フッ素化合物の合成法を確立したので,今年度は創薬への展開として,光線力学的治療への展開を図った。光線力学的治療は癌治療の一手法であり,腫瘍集積性色素を可視光レーザーにより光励起し,その結果発生する活性酸素種により腫瘍細胞を破壊する。可視光の中でも皮膚透過性の高い長波長光,すなわち赤色光が通常は用いられる。現在臨床で使用されている代表的な光増感色素としてヘマトポルフィリン誘導体が挙げられるが,前述の赤色におけるモル吸光係数が小さいことがネックであり,改良が求められてきた。そこで注目されているのが赤色の吸収の大きいフタロシアニンであり,第2世代の増感剤として注目を集めている。しかしながら,フタロシアニンに特有の凝集性により失活することが知られていることから,このような凝集性を示さないフタロシアニンが求められている。我々はフッ素をフタロシアニンに組み込むことにより非凝集性の光増感剤が開発可能であると考えた。フタロシアニンへのフッ素コーティングは,トリフルオロエトキシ置換のユニットを,親水性ユニットとしては核酸あるいはシクロデキストリンをハイブリッドさせた新規テフロン加工光増感剤を設計し,その合成に成功した。これらを用いPDT試験を行った。対照として,現在臨床で用いられているタラポルフィンを用いた。その結果,タラポルフィリンでは今回検討した濃度でPDT効果が見られなかったのに対して,シクロデキストリン結合型テフロン型フタロシアニンは非常に高い効果が見られた。これらの化合物は光無照射下でほとんど作用が見られなかったことから,光照射により選択的に腫瘍細胞を破壊できることが期待でき,日光過敏症を併発しない新たな光線力学的治療薬への展開が期待できる。
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