Research Abstract |
バクテリオシンbacteriocin(Bac)は,細菌が生産する抗菌物質で,細菌叢における細菌の定着因子であり,病原性因子の一つである。臨床分離腸球菌E. faecalis菌は抗菌域の違いから各種のBacを生産する。本年度の研究では(1)E. faecalisにのみ活性を示すBacteriocin 41(Bac 41)の分子遺伝学的解析と遺伝子発現機構,(2)新型の各種腸球菌に対して活性を示す広域活性バクテリオシンbacteriocin51(Bac51)を新たに発見し,(3)バクテリオシンの活性域に影響を与える遺伝子領域の解析を行った。 (1)Bacteriocin 41(Bac 41)の分子遺伝学的解析と活性化機構 Bac 41は,E. faecalisにのみ活性を示す。臨床分離E. faecalis YI714が生産し,フェロモン反応性プラスミドpYI14(61kb)にコードされている。pYI14からBac 41生産領域をクローニングした。Bac41遺伝子は分子サイズ6.6kbpの領域に存在する。この中には6個のORFs(遺伝子)が含まれていた。これらは順にORF7(bacL_1),ORF8(bacL_2,ORF9,ORF10,ORF11(bacA),ORF12(bacI)である。この中でBac41発現に必要な遺伝子はbacL_1,bacL_2,bacA,bacIであった。bacL_1,bacL_2はそれぞれBac 41の前駆体蛋白(L_1,L_2蛋白)を生産し,bacAはL_1,L_2蛋白を活性化(activation)させる蛋白,A蛋白を生産する。A蛋白はL_1,L_2蛋白を細菌細胞外で活性化させ,Bac 41を生産する。bacIはBac 41生産菌に自ら生産するBac 41に対して耐性を賦与するための蛋白(免疫蛋白)を生産する遺伝子である。bacL_1蛋白は,グラム陽性菌の細胞壁溶解酵素(lysozyme)様活性をもつ蛋白で,そのN末端からシグナルペプタイド,酵素活性領域,細菌細胞壁結合領域の3つの領域が存在した(J.Bacteriol. Vol.190:2075-2085,2008)。 (2)臨床分離腸球菌から各種腸球菌にバクテリオシン活性をもつ新型バクテリオシンBac 51を発見し,分子遺伝学的解析を進めている。(3)E. faecalisが生産するBac 31は,主としてE. faeciumにのみ活性を示すバクテリオシンである。このバクテリオシンのリーダーペプチド,及びバクテリオシン遺伝子の塩基配列を置換することにより,そのバクテリオシン活性が変化することを発見し,研究を進めている。
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