Research Abstract |
本研究は,無症状の病態や現代医学的には健康と診断される有症状患者など,東洋医学的に未病と呼ばれる半病的状態に対し,科学的な診断マーカーを提案するとともに,その治療に結びつく薬理基盤の構築を究極的目的として実施している.すでに,細胞膜表面に局在するムチン分子であるMUC1が腫瘍細胞の悪性化と関連し,一方,MUC1の自己抗体は抗腫瘍活性をもつという成績を得ており,MUC1または抗MUC1抗体が新規未病マーカーとなる可能性を追求している.本年度は,まず,腫瘍細胞でのMUC1の発現亢進の機序を調べ,多くの腫瘍細胞が曝される低酸素環境が重要であることを見出し,しかも低酸素によるMUC1の発現促進はHIF-1αによる直接的転写促進と,未知のタンパク質の発現を介した間接的促進の二相性の調節であることを解明した.一方,抗MUC1抗体が細胞膜上のMUC1と結合するとこれらの複合体が細胞内へと取り込まれることは既に見出していたが,この際,この免疫複合体にはEGF受容体も含まれ,同時に取り込まれ,EGFに対する応答性が低下することを明らかにした.これらの成績はMUC1およびその抗体の未病マーカーとしての有用性の科学的証拠となると考えられる.さらに,多くの未病に用いられる漢方薬の汎用生薬である甘草の主成分,グリチルリチン(GL)についても,その作用機序を解明すべく,in vivoマイクロアレイ解析を実施した.本実験によりAsph, Gabreを始め約30種のGL応答性遺伝子を見出し,これらのうち数種についてはin vitroの実験系でもGL応答性を検証できた.今後,さらにGLによるこれらの遺伝子の発現亢進の機序についてプロモーター解析により調べる予定であるが,本成績は漢方薬による未病の治療に関する現代医学的機序に繋がる興味深ものと考えられる.
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