Research Abstract |
私はこれまで,細胞レベルの老化シグナルの活性化が加齢に伴う血管機能障害,すなわち,血管老化を促進し,動脈硬化の進展に関与することを報告した。今回は,加齢に伴う血圧の日内変動低下のメカニズムについて検討した。睡眠や内分泌代謝など多くの日内変動は,時計遺伝子によって制御されている。実際加齢に伴い,血圧の日内変動は低下し,時計遺伝子の変動も障害されていた。時計遺伝子の欠失マウスでは,血圧の日内変動が低下していたことから,これらの現象は因果関係のあるものだと考えられた。以前私は,血管内皮細胞の老化に伴い,重要な血管拡張物質である一酸化窒素(NO)の産生が低下することを明らかにした。若年マウスにおけるNOの産生は日内変動を示したが,その変動は加齢に伴い減弱した。NO合成酵素の欠失により,血圧の日内変動の低下だけではなく,時計遺伝子の発現の障害もみられたことから,NOによる時計遺伝子の発現調節の可能性が示唆された。培養系の実験により,NOは時計遺伝子の発現をリン酸化あるいは,ニトロシル化によって,正に制御していることが明らかとなった。高齢マウスにNOを投与すると,時計遺伝子の発現は正常化し,血圧の日内変動も回復したが,これらの作用は,時計遺伝子欠失マウスではみられなかったことから,加齢に伴うNO産生低下が,加齢に伴う血圧の日内変動低下のメカニズムに関与していると考えられた。
|