Research Abstract |
研究対象者は,60歳以上の自立した生活を送っている高齢者953名とした. 咀嚼能率の指標としては,検査用グミゼリーを30回自由咀嚼させたのちの咬断片表面積増加量とした.最大咬合力は,デンタルプレスケール(50H,Rタイプ,ジーシー社)を用い,咬頭嵌合位付近の最大咬合力を算出した. 分析方法は,咀嚼能率と性別の関係については,Studentのt検定を用い,咀嚼能率と年齢,残存歯数および最大咬合力との関係をPearsonの相関係数の検定にて検討した.次に,他の因子の影響を排除した上で,独立して咀嚼能率と関連のある因子を抽出するため,目的変数を咀嚼能率として重回帰分析を行った. その結果,咀嚼能率は,男女間で有意差はみられなかった.咀嚼能率と年齢の間には,弱い負の相関がみられ(r=-0.18,P<0.01),咀嚼能率と残存歯数(r=0.51,P<0.01),咀嚼能率と最大咬合力との間には,有意な正の相関がみられた(r=0.49,P<0.01).また,年齢と残存歯数(r=-0.30)ならびに咬合力(r=-0.18)との間には,有意な負の相関がみられた.重回帰分析の結果,残存歯数(標準化偏回帰係数β=0.40,P<0.01)と最大咬合力(β=0.27,P<0.01)は咀嚼能率に有意に関連する因子であったが,2変量間では有意な関連が認められた年齢は,重回帰分析においては,咀嚼能率と有意な関連は認められなかった(β=-0.02). 以上より,残存歯数と咬合力が等しいとすれば,年齢は,咀嚼能率に対しては有意な関連のある因子ではなく,歯を失わなければ,咀嚼能率は,高齢になっても維持されることが示唆された.
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