Research Abstract |
本研究の目的は,フィリピンにおける階層固定的な社会構造を,社会ネットワーク分析の立場から捉え直し,貧困をめぐる議論に新しい視点を提供することであるが,その際,フィリピンにおける富裕層,中間層,貧困層を対象として,長期の参与観察と質問票調査によって収集したデータを用い,固有のネットワーク構造を析出するという固有の分析枠組みを有している。本年度の調査は,(1)マニラ首都圏やダバオ市における複数の異なる属性を有する情報の伝達経路において,如何なるネットワークを活用しているのかについての情報の収集,(2)これまで収集した都市部の基礎データと対をなすような地方農村(ビコール地方アルバイ州・ソルソゴン州とボホール州)のネットワーク・データの収集を,異なる階層間において実施した。これは,フィリピンの階層固定的社会における情報流通問題がどのような経路を通じて慢性的貧困に影響しているかを理解するための基礎データである。収集されたデータは現在,解析が進められている途中であるが,それらが示唆するのは,情報の種類によって活用ネットワークを選択するものの,それらが貧困層の場合には,同一階層・同一地域内に,富裕層の場合は,比較的地域は拡散するものの同一階層内に,それぞれとどまっているために,社会階梯間の流動性を阻害しているという事実である。 これらの成果の一部は,共同研究者フェルディナンド・マキト博士とともに参画しているUniversity of Asia and Pacificとの共同研究プロジェクトMigration and Povertyのセミナーにおいて既に発表され,来年度は,フィリピン全国規模のコンファレンスの開催とそれをもとづく成果が公刊される予定である。
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