Research Abstract |
最終年度は,参照表現で多用される空間語の性質を定量的に扱うために,心理学実験を基礎として空間語の意味を与える計算モデルを構築した. 「左」,「近い」,「遠い」を含む言語表現を対象に,ディストラクタが空間語理解に与える影響を心理学実験により調べ,ディストラクタ条件での空間語理解の傾向の分析および計算モデルの提案をおこなった.実験によりディストラクタが空間語理解に及ぼす影響を定量的に明らかにし,空間語毎の性質を抽出することに成功した.さらに空間語の性質がスキーマ性を持つ特定の注意の要因に基づくことを確認した.先行研究との比較では,位相型空間語が投射型空間語よりも常に選択されやすいと主張する認知負荷理論の主張に対する反証を得た.さらには,空間語「近い」の実験データに基づき,先行研究の“near"に関する相対近接性モデルと比較を行い,顕現性の扱いに関する問題点を指摘した. 計算モデルに関しては,参照物体,指示物体,ディストラクタの三物体構成について,注意の要因をモデリに導入し,幾何的要因を変数に持つ計算モデルを提案し,評価をおこなった.また,計算モデルを実環境に適合させるための手掛かりとして,言語表現には通常含まれない最遠点を視覚情報から得ることの重要性を指摘した. 「左」,「近い」,「遠い」を対象とした前述の心理学実験データを用い,空間語理解における個人差の傾向を分析した.この結果,空間語理解に関して異なる傾向を持つグループの存在を明らかにし,類似の傾向を持つ被験者のみを用いて計算モデルのパラメータ学習をおこなうとモデルの精度が向上することを確認した.
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