Research Abstract |
鉄ニトリロ三酢酸誘発ラット腎発癌モデルを,散発性のヒト癌に頻繁に見られる染色体不安定性を再現する動物モデルとして確立することができた。さらに、高頻度に染色体変化が見られるゲノム部位において,酸化ストレス発癌に関わる遺伝子をいくつか見出した. Fe-NTA誘発ラット腎癌における染色体変化の全体的な特徴として,以下の2つが明らかとなった.(特徴.1)4番染色体のセントロメア側に,長い範囲の高頻度増幅領域がある.(特徴.2) 5, 6, 8, 9, 14, 15, 17, 20番染色体については,染色体のほぼ全域にわたるヘミ欠失(いわゆるモノソミー)が頻繁に見られた. 4番染色体のセントロメア側領域においては,10Mbから50Mbにわたる長い範囲のゲノム増幅が60%以上の検体で認められた.ゲノム増幅の頻度が最も高い領域(長さ=約0.4Mb)には,癌遺伝子として知られているc-Metが含まれていた.腫瘍の表現型とゲノム変化の関係を調べたところ,c-Metの増幅は転移の有無と有意に関連していることが分かった.さらに発現アレイの結果との照合を行い,4番染色体の増幅領域内に含まれており正常組織に対する発現増加が顕著な遺伝子としてPtprzl(チロシンホスファターゼの1種)を見いだした.Ptprzlは,β-カテニンを脱リン酸化して核内への移行を促すことにより,癌遺伝子として機能していた. 5番染色体では,3分の2以上の検体で,50Mb以上か染色体1本全体にわたるような大規摸なヘミ欠失が見られた.さらに,その半分では,Cdkn2aおよびCdkn2b癌抑制遺伝子の残りの1個のアレルも喪失しているという状態になっていた.相同染色体の両方でCdkn2a/2b遺伝子座の周辺のみが欠失している腫瘍は1例もなかった.これは,染色体不安定性により癌抑制遺伝子がホモ欠失するメカニズムを考察する上で,重要な知見となるものである.
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