2008 Fiscal Year Annual Research Report
高齢者虐待における「虐待を甘受する家族病理」構造に関する研究
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19500650
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Research Institution | Kyoto University of Education |
Principal Investigator |
杉井 潤子 Kyoto University of Education, 教育学部, 教授 (70280089)
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Keywords | 高齢者 / 虐待 / 家族病理 / 介護 / ケア |
Research Abstract |
平成20年度は、ケア概念に関する資料の収集および文献研究をふまえて、在宅ケアマネージャーおよびホームヘルパーに実践現場の実情など専門的知識の提供を受けながら、高齢者に対する虐待/不適切なケアがなぜ起こるのか、理論的検討をおこなった。その結果、家族関係とケアという視点の重要性が示唆された。 (1)要介護高齢者および介護者、家族それぞれの関係的役割および位座をふまえた場合、虐待/不適切なケアに関して第3者による客観的判断のみでは当事者性を欠くと言わざるを得ない。(2)虐待はそもそも「高齢者に対して、結果として危害を加えたり苦痛を与えることとなる、信頼関係のうえに築かれた予期しうる適切な行為を欠いている事態、単一あるいは繰り返して行なわれる行為」(the British Charity Action on Elder Abuse 1993)、「高齢者が他者からの不適切な扱いにより権利利益を侵害される状態や、生命・健康・生活が損なわれるような状態に置かれること」(厚生労働省2006)と規定されているように、高齢者および介護者間で結果として引き起これる不作為の行為であることが多い。(3)ケアする人とケアされる人との間では、伝統的家族規範のもとで、「家族だからすること/してもらう」あるいは「家族だからできること/してもらえること」があり、現場においても「家族さん」への期待と励ましが根強い。しかし、その一方で、「家族だからできないこと/してもらえないこと」あるいは「家族だからしないこと/してもらわないこと」という脱家族化のなかで個人の意思があることに配慮することが重要であり、家族ケアで感得される愛情義務規範にもとづく関係性の病理にどのように介入するかが今後の課題である。
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