Research Abstract |
汚染物質の越境的な拡散が生じている北東アジアに位置し,半閉鎖的海域と捉えられている日本海では,各種汚染物質の集積が懸念されている。そこで我々は,この日本海の中央にある富山湾で,バクテリアの群集変動(遷移)から海洋環境をモニタリングする方法の有用性を検討することを考えた。 まず,毎月,富山湾沿岸域の6〜12港で海水を採取し,年間のバクテリア群集構造の変化を変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)で比較観察した。その結果,周年的な変化が見られる.ものの,同じ月であれば港間での差は少なく,多くの港でほぼ同じような群集構造が検出されたことから,富山湾沿岸域のバクテリア群集構造は,基本的に均一であることが推察された。しかし,河川水の流入により汽水域となっている港では,他の港とは異なる群集構造が見られる場合が多かった。DGGEで検出された主要なバンドを解析した結果,Proteobacteriaに属する種とCyanobacteriaに属する種が多くの港の試料から同定されたことから,富山湾沿岸域では,これらが共通で主要なバクテリア種になっていることが考えられた。一方,汽水域の港の試料では,淡水域で検出されることが多いFlavobacteriaに属する種が多く同定された。 さらに,バクテリア群集構造の変化によって,富栄養化や重金属汚染が捉えられるかどうかを調べた。まず,採取した海水にリン・窒素やカドミウムを添加してDGGEのバンドパターンの変化を調べた。その.結果,リン・窒素やカドミウムの添加で新たに出現するバンドが検出され,それらは,Lishizhenia属,Cytophaga属,Serratia属などに近い種と推定された。これらの結果より,DGGEにおいてこのようなバクテリア種由来のバンドの出現が,富栄養化やカドミウム汚染の指標として使用できる,可能性が示唆された。
|