Research Abstract |
温帯や熱帯の植物と同様に,極地に自生するコケや顕花植物にも植物病原菌が広く感染し,一部の地域では枯死などの被害が発生している。これら極地の植物病原菌の多くは,これまでに報告の無い種であり,それらの生態についての情報はほとんど無い。一方,近年の気候温暖化により植物病原菌と宿主植物とのバランスが崩ずれ,新たな植物病原菌による被害が温帯域で頻発している。これは,高温ストレスや豪雨多発による傷害が,宿主植物の病害抵抗性を弱め,新たな植物病原菌による被害を受けやすくなったためと考えられる。温暖化が急速に進んでいる極域では,このような現象が温帯域よりもより早く進行している可能性がある。この研究の目的は,極地に発生する植物病原菌を対象とし,それらを同定して宿主植物の生存に及ぼす影響を明らかにすることである。 本年度は,極地のコケに広く感染している土壌糸状菌のPythium属菌を効率的に分離するために前年度に開発した培地(Morita and Tojo2007,東條2008)と従来の同属菌選択分離培地を用い,ノルウェー領スピッツベルゲン島のニーオルスン日本基地北側斜面のコケからPythium属菌を分離した.その結果,これらの菌株が5つの種レベルで異なるPythium属菌のグループが検出された。また,2003年から2006年に行った同様の調査の結果とあわせて解析したところ,各Pythium属菌グループの検出密度が年次により変動し,一部のグループについては検出密度と降水量の変化に関連が見られた。そこで,この結果を専門学会で口頭発表により報告した(Tokura et al.2008)。この成果に加え,スピッツベルゲン島以外の極地調査で見られた植物病原菌について同定や生態を行い,いくつかの新たな知見が得られたので専門学会で報告した(Tojo 2008,東條2008b, Hoshino et al.2008,Yamazaki et al.2008,山崎ら2008)。
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