Research Abstract |
平成21年度は,多次元かつ非線形の複雑なデータを視覚的に説明可能にするパターン認識技術の自己組織化マップ(Self-Organizing Map : SOM)のアルゴリズムを利用して,九州の地域特性を十分考慮し,近年の豪雨と気象場との関連性を調べた.その結果,台風,梅雨前線の特徴に多様性があり,九州各地の豪雨の頻度特性と気象場との明確な関連性が認められなかった.このことは,日本列島が傾圧帯に位置し,複雑な気象場の特性を示し,年々変動の特徴を簡単に抽出できないからである. そこで,比較的単純な気候特性を示す南米中部を対象にして,対象領域の水文特性と気候特性との関係を調べた.昨年度,1970年代を境に起こった劇的な気候変動に対応して,渇水傾向から多雨傾向に変化したことが明らかになったが,さらに踏み込んで,大西洋の貿易風との関連を調べた.基本的に,南米中部の水文変動は,数10年規模で起こる北半球の太平洋領域の海面温度変動(PDO : Pacific Decadal Oscillation)と関連するが,直接的には,大西洋の貿易風の変動と顕著に関連していた.即ち,水位変動の直接的要因は,豊富な水蒸気を含む貿易風が南米中部に至り,降水をもたらしていることが挙げられる.1948年以降に水文変動に適用して見ると,1970年以前は,PDOの負の局面に対応して,貿易風が弱まり,南米中部への水蒸気の供給が減少し,少雨傾向を示していた.一方,1970年以降は,PDOの正の局面に入り,貿易風が強まりとともに南米中部への水蒸気の供給が増加し,多雨傾向になったことがわかった. 以上のように,気候特性が簡単な地域を選択することにより,水文変動との関連が明瞭になる場合もあると考えられるので,まずは,そのような地域を重点的に調べることが,今後の複雑な気候特性を示す地域を調べる上の重要な出発点になると考えられる.
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